水力発電所の集積地に、大規模ダム式から小水力まで勢ぞろい日本列島エネルギー改造計画(18)富山

日本で最も有名なダムと言えば「黒四」こと黒部ダムだろう。富山県には黒四に代表されるダム式の水力発電所のほかに、水路を利用した発電所が大規模から小規模まで数多く稼働している。発電量の7割以上が再生可能エネルギーで作られており、今後さらに小水力発電の比率を高めていく。

» 2012年11月29日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]
図1 黒部川第四発電所。出典:関西電力

 富山県は「水力発電王国」と呼ばれるほど、古くから水力発電が盛んに行われている。高い山を源にした急流の川が数多くあり、そのひとつ黒部川には日本を代表するダム式の「黒部川第四発電所」が今なお健在だ(図1)。1961年から運転を続けており、落差545メートルの水流を生かして最大33万kWの電力を供給することができる。年間の発電量は10億kWhにのぼり、30万世帯以上の家庭で使う電力量に相当する。

 しかし最近では環境破壊をもたらすダム式の水力発電所の建設は少なくなり、代わって水路を活用した発電設備が増えている。富山県内には大規模な水路式の発電所から小規模な農業用水路を使った発電所まで、バラエティに富む水力発電が展開されている。 

図2 富山県の再生可能エネルギー供給量(2010年3月時点)。出典:千葉大学倉阪研究室と環境エネルギー政策研究所による「永続地帯2011年版報告書」

 水力を中心に県内で発電する電力量のうち7割以上を再生可能エネルギーで作り出している。国全体で見た再生可能エネルギーの比率は1割程度であることから、富山県の比率の高さが分かる。このうち小水力(発電能力が1万kW以下)は長野県に次いで全国で2番目の規模を誇る(図2)。

 富山県の計画では、2005年に12か所だった小水力発電所が2011年に16か所に増えており、さらに2016年には23か所に、2021年までに28か所に拡大する。中小の河川や農業用水路の中で小水力発電に適した候補地を選び出して、順次建設を進めていく予定だ。

 農業用水路を活用した小水力発電のモデルケースとされているのが「臼中発電所」である(図3)。農業用水の不足を解消するために作られたダムからの水路に発電機を設置したもので、約57メートルの落差を生かして910kWの発電能力がある。農業用水路を使った小水力発電所としては富山県で最も規模が大きい。

図3 臼中(うすなか)発電所の概要。出典:富山県農林水産部

 中小の河川を利用したユニークな小水力発電所もある。2012年4月から運転を開始した「小早月川発電所」だ。市民を主体にした投資ファンドによって造られた発電所で、長野県内で太陽光発電を対象に拡大しているものと同様のスキームで運営されている(図4)。

 市民による出資のほか環境省の補助金や金融機関からの融資で約11億円の資金を集めた。発電能力は1000kWあり、メガソーラー並みだが、水力は太陽光と比べて5倍くらい発電効率が高い。年間の電力量は546万kWhを見込んでおり、約6500万円の売電収入を予定している。固定価格買取制度によって20年間のうちに利益を上げる計画だ。

図4 小早月川(こはやつきがわ)発電所の事業スキーム。出典:おひさまエネルギーファンド

 さらに規模の大きい水路式の発電所を建設する計画も進んでいる。北陸電力が27年ぶりに建設する「片貝別又発電所」で、富山県の東部を流れる片貝川と別又谷の高低差を利用する(図5)。発電能力は小水力を大きく上回る4400kWもあって、年間に1700万kWhの電力供給が可能になる。運転開始は2016年度を予定している。

図5 片貝別又(かたかいべつまた)発電所の全景。出典:北陸電力

 一方で富山県はエネルギー消費の削減目標を掲げて、企業と家庭に太陽光発電システムの導入などを推進している。企業には毎年0.5%ずつ、家庭には1.0%ずつ削減することを奨励中だ。再生可能エネルギーの比率が8割を超える日も遠くない。

2014年版(18)富山:「小水力発電所を45カ所へ、農村から温泉地まで用水路がめぐる」

2013年版(18)富山:「小水力発電で全国第2位、農業用水から下水までエネルギーに」

*電子ブックレット「日本列島エネルギー改造計画 −北陸・中部編−」をダウンロードへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.