日本有数の山に囲まれて、小水力発電から太陽光発電へ日本列島エネルギー改造計画(15)山梨

富士山をはじめ3000メートル級の高い山に囲まれた山梨県は水資源が豊富で、さまざまな方式の小水力発電が展開されている。さらに甲府市は全国の県庁所在地の中で日照時間が一番長く、太陽光発電に適した自然環境を生かして大規模なメガソーラーも動き始めた。

» 2012年11月20日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 山梨県は土地の約8割を山岳地帯が占める国内屈指の風光明美な場所だ(図1)。居住可能な面積は鳥取県と奈良県に次いで全国で3番目に狭い。その一方で日照時間の長さは日本一を誇り、太陽光発電など再生可能エネルギーを導入するには最適な条件がそろっている。

図1 山梨県の地勢。出典:山梨県森林環境部

 豊かな自然環境を生かすために「やまなしグリーンニューディール計画」が2011年3月から始まっている。重点を置くのは太陽光発電、小水力発電、バイオマス、燃料電池、の4つの分野である。

図2 山梨県の再生可能エネルギー供給量(2010年3月時点)。出典:千葉大学倉阪研究室と環境エネルギー政策研究所による「永続地帯2011年版報告書」

 このうち最も導入が進んでいるのは、発電能力が1MW(メガワット)以下の小水力発電だ(図2)。県の周囲にある高い山や大きな湖から流れてくる水資源は豊富にあり、小水力発電に向く場所が県内各地に数多く点在している。

 ただし小水力発電は太陽光発電に比べると設備の建設費が2倍程度かかるうえに、設置にあたっては自治体による認可が必要になるなど、導入までのハードルが高いことも事実である。

 そこで山梨県の企業局が率先して小水力発電所を建設・運営して、モデルケースづくりに取り組んでいる。モデルケースになる発電所は2か所に作られた。

 1つは県が運営する浄水場の施設内に、水車による発電機を設置した。水道を流すためのポンプを水車にして発電する方式で、82kWの発電能力がある(図3)。

図3 水道施設の中に設置されている「塩川第二発電所」。出典:山梨県森林環境部

 水力は太陽光と違って常時安定した発電量を見込むことができ、年間の電力量は発電能力の7割まで可能になる。太陽光発電では1割強にとどまる。

 こうした違いから、82kWの発電能力でも年間に約50万kWh、一般家庭140戸分の電力を作り出すことができる。太陽光発電に換算すると0.5MWに相当する規模の電力を小さな設備で供給できる利点がある。

 もう1つのモデルケースは、小水力発電の中でも珍しい湧水を利用したものだ。富士五湖のひとつ、河口湖の近くにあるトンネルから湧き出る水の勢いで発電する。この湧水を使った発電設備も能力は80kWあって、ほぼ同じ50万kWhの電力を供給できる。

 これまで小水力発電が普及しなかった問題点のひとつとして、水による運転時の騒音の問題があった。近隣に住宅がある場合には大きな騒音が導入の妨げになってしまう。山梨県の湧水発電所では、開閉式のカバーを付けた対策を施して、防音効果を実証している(図4)。発電設備の汚れを防ぐことができるため、人手による維持管理の頻度を減らせるメリットもある。

図4 開閉式の「若彦トンネル湧水発電所」。出典:山梨県森林環境部

 小水力発電所が県内各地に広がる一方で、最近になって太陽光発電の大規模な導入事例も増えてきた。山梨県の中心に位置する甲府市は全国の県庁所在地の中で、日照時間が最も長いことが気象庁のデータで明らかになっている(図5)。太陽のイメージが強い高知市や宮崎市よりも日照時間が長く、それだけ太陽光による発電量が多くなるわけだ。

図5 日照時間が長い県庁所在地。出典:山梨県森林環境部

 2012年1月には、山梨県と東京電力が甲府市内に共同で建設した「米倉山太陽光発電所」が運転を開始している。発電能力は10MWで、現時点では神奈川県にある「扇島太陽光発電所」に次いで国内で2番目に大きいメガソーラーである。

 このメガソーラーは山梨県が所有する丘陵を造成して、45万平方メートルの敷地に8万枚の太陽光パネルを設置した。敷地内には太陽光発電や小水力発電を電源に活用したPR施設もあり、再生可能エネルギーを推進するための情報発信拠点になっている。

2014年版(15)山梨:「南アルプスからの清流で小水力発電、エネルギー地産地消の先進モデル」

2013年版(15)山梨:「富士山のふもとで太陽光を26倍に、2050年にエネルギー自給率100%へ」

*電子ブックレット「日本列島エネルギー改造計画 −関東・甲信越編−Part II」をダウンロードへ

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