店舗や工場で業務用のエアコンなど電圧の高い機器を使っている場合には、家庭・商店向けとは違う契約メニューを選ぶ必要がある。最も標準的なメニューは「低圧電力」で、単価は家庭・商店向けよりも安い。ただし基本料金のもとになる契約電力の決め方が複雑で難しい。
連載(1):「基本料金を安くする対策」
電力の小売が自由化されていない低圧の領域には、家庭・商店向けの「電灯」のほかに、やや規模が大きい店舗・工場向けに「低圧電力」という契約メニューがある(図1)。企業が利用する電力の中で、この領域だけは現在でも電力会社の独占市場だ。
低圧電力は家庭用の電気機器よりも大きな電力を必要とする業務用のエアコンや冷蔵庫、工場で使うポンプやモーターなどに適している(図2)。家庭用の電気機器が通常は100V(ボルト)の電圧で利用するのに対して、業務用の電気機器は200Vが標準になる。このため低圧電力は200Vで供給される。
基本料金のベースになる契約電力は1kW単位で設定する。この契約電力の決め方が低圧電力の場合は2通りあって、どちらも計算方法が複雑だ。電気料金に大きく影響するため、後で詳しく説明する。
これに対して電力量料金は単純で、月間の使用量に1kWhあたりの単価を掛け合わせるだけである。各電力会社が提供する低圧電力の標準メニューでは、北海道を除いて単価を「夏季(7月〜9月)」と「その他季(10月〜6月)」に分けている(図3)。
需要が多い夏季の電力を高く設定しているが、それでも家庭向けの「従量電灯」の単価よりは低い。電力の使用量が多い場合は従量電灯ではなくて低圧電力を選択したほうが電気料金は安くなる。
低圧電力では電力量料金の単価は使用量に関係なく一定であるため、使用量を減らせば電力量料金は下がる。問題は基本料金をどう抑えるかだ。
これまで基本料金は契約電力で決まるものだと説明してきたが、実はもう1つの要素がある。使用する電気機器の「力率」によって、料金の割引あるいは割増があることに注意が必要だ(図4)。この力率による割引・割増がないのは、家庭・商店向けの契約メニューだけである。
電気機器が電力を使用する際の効率を力率と呼んでいる。機器によっては供給された電力の一部が有効に使えないことがある。例えば10kWの電力のうち実際には9kWしか有効に使うことができなければ、力率は90%になる。1kWの電力は無効になり、その分は契約電力から除外される。
利用する側から見ると適正な契約電力になるが、電力会社にとっては貴重な電力が無駄に浪費されてしまうことになる。そこで力率によって基本料金を割引あるいは割増して、利用者に機器の効率を高めてもらうようにする狙いがある。
どの電力会社でも力率85%(0.85)を標準に設定して、それを上回る場合は割引に、下回る場合は割増にする。計算式では通常の基本料金に(1.85−力率)を掛ける(図5)。力率が90%(0.9)の場合は5%の割引になり、80%(0.8)の場合は逆に5%の割増になる。力率を80%から90%に改善すると、基本料金は10%安くなるわけだ。力率を改善するためには、コンデンサを使って電力を制御する方法が一般的である。
最後に残る問題が契約電力の算定方法だ。低圧電力の契約電力は2通りの方法のどちらかで計算する(図6)。
1つ目は家庭・商店向けの従量電灯で使われたのと同様のブレーカによる方法だ。ブレーカが許容する最大の電力を契約電力に設定する。もう1つの方法は、個々の電気機器が使用する電力を合算して契約電力を算定する。どちらを選ぶかは利用者側の自由である。
計算方法はブレーカ方式のほうが簡単になる。この方法で契約することを「主開閉器契約」と呼び、同時に使う機器の数が少ない場合は有利になる。もう一方の方法は「負荷設備契約」で、計算方法が複雑になる代わりに、同時に使う機器が多い場合にはブレーカ方式よりも契約電力を低くできる可能性が大きい(図7)。
どちらの算定方法を適用しても、契約電力が50kW未満に収まることが低圧電力の条件である。50kW以上になると「高圧」の契約メニューを選ばなくてはならない。オフィスビルなどでは契約電力が低圧よりも大きい50kW以上になるケースが多く、高圧の契約メニューを選択する必要がある。高圧の場合は低圧と違う方法で契約電力を決めることになる。
連載(5):「小規模ビル向けのメニュー」
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