基本料金を安くする対策 「契約電力を下げる」知らないと損する電気料金の仕組み(1)

電気料金の値上げが相次ぎ、コストの増加に悩まされる企業は多い。ところが料金計算の仕組みを理解して対策をとっているケースは少ないようだ。電気料金は複雑な体系になっていて、契約するメニューごとに違いがある。基本的な料金体系から地域別のメニューまで、シリーズで徹底解説する。

» 2013年05月09日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 電力会社と結んでいる契約の中身をご存じだろうか。実際に調べてみると、どうしてこんなに複雑でわかりにくい料金体系になっているのか、あきれてしまうほどに厄介だ。

 とはいえ大まかにでも理解しておかないと、電気料金を抑えるための効果的な対策を打つことはできない。いくら頑張って節電に取り組んでも、一時的に使用量が増えてしまうだけで、高い料金を払い続けなくてはならないケースもある。

 電気料金を安くするためには、まず基本的な計算方法をつかんでおく必要がある。どの電力会社の契約メニューでも、計算方法は同じ。「基本料金」+「電力量料金」+「賦課金」の3種類で決まる(図1)。

図1 電気料金の計算方法。出典:北海道電力

 基本料金は月額固定だが、電力量料金と賦課金は毎月の使用量に単価を掛け合わせて計算する。一見すると簡単な計算式だが、基本料金と単価の決め方が非常に複雑になっている。第1回目は基本料金を安くできる方法を解説しよう。

基本料金は「契約電力」の大きさで決まる

 企業や家庭が電力会社と結ぶ契約メニューは何種類もあって、それぞれで基本料金に違いがある。どの契約メニューが適用されているかを確認することが第1歩になる。共通する原則は「契約電力を下げれば、基本料金は安くなる」。

 電力会社は全国10地域に分かれているが、どの電力会社でも契約メニューは4つの区分に集約できる。使用量が多い順に「特別高圧」「高圧大口」「高圧小口」「低圧」の4区分だ(図2)。このうち低圧は家庭や店舗、小規模な事務所や工場が対象で、そのほかは企業や大規模な施設向けのメニューになる。

図2 電力会社と結ぶ契約の主なメニュー種別

 どのタイプの契約メニューでも、利用できる電力の上限を「契約電力」として設定する。この契約電力の大きさで基本料金が決まる。一番わかりやすいのは家庭の場合で、家の中に設置されているブレーカが契約電力を超えてしまうと、スイッチが落ちて電気を遮断する仕掛けになっている。

 家庭向けの契約電力は通常「アンペア(A)」を単位にして決める。最低10Aから最高60Aまであって、それぞれで基本料金は固定である(図3)。契約電力のアンペアを下げれば、基本料金は安くなる仕組みだ。

図3 家庭に設置されているブレーカの色と基本料金(東京電力の場合)。出典:東京電力

 一般の家庭では電圧を100V(ボルト)で使うことが多く、60Aの場合の電力の上限は6000W(6kW)になる。一時的に大きな電力を使わないように気をつければ、低めのアンペアのブレーカに変えても支障はないだろう。たいていの家庭は余裕のあるアンペアになっている。

夏に使用量が増えると冬の基本料金も高くなる

 これに対してオフィスビルに多い高圧小口の契約では、実際に使った電力の最大値が契約電力になる。多く使えば使うほど契約電力が大きくなって、それに応じて基本料金が上がっていく。「実量値契約」と呼ばれるもので、これがくせものだ。

 電力の最大値は30分間の平均使用量をもとに、月ごとに最大値が決まる。ただし契約電力は毎月変わるわけではなく、過去12か月の中から最大の月を選ぶことになっている。夏に上昇した契約電力は冬も継続されてしまう(図4)。それに応じて基本料金も高いままになる。

図4 「実量値契約」による契約電力の決め方。出典:中国電力

 わずか30分間だけ大量の電力を使ってしまうと、その後の1年間は高い基本料金が続くことになる。この仕組みを知らずに高額の基本料金を払い続けている企業は少なくないようだ。

 夏の昼間に使用する電力を抑えることで、電力使用量のピークを抑えることができれば、その後の12か月間の基本料金が安くなる。夏のピークカットは電力不足の解消に貢献するだけではなく、基本料金を引き下げる効果もある。

 現在の契約電力が何kWになっているかは、電力会社から毎月送られてくる請求書を見ればわかる。実量値契約の請求書には、現在の契約電力と当月の最大値が記載されているはずだ(図5)。さらに電力会社によっては直近12か月の最大値も記載している。毎月の最大値の増減が小さければ問題ないが、極端に大きい月がある場合は基本料金を引き下げる余地がある。

図5 電気料金の請求書のサンプル。出典:東京電力

 このほかにも契約電力の決め方は何種類かあって、高圧か低圧かによっても適用できる契約方法に制限がある。それぞれの契約メニュー別に、今後の連載の中で詳しく説明していく。

テナント契約の電気料金にも要注意

 ここまで説明した料金体系が当てはまらないケースもある。ビルのテナントになっていて、電気料金もビルの管理会社から請求される場合だ。テナント契約の場合は基本料金がなくて、使用量に応じた電力量料金だけになっているケースが多い。使用量×単価で決まるが、管理費などを加えて単価が高く設定されている。

 ビルの規模や設備によって状況は違うが、大規模なビルで1kWhあたりの単価が20円以上、中・小規模のビルで30円以上の場合は、電力会社の単価の2倍以上になっていて、ビル管理会社が割高に設定している可能性がある。実際にビル管理会社が電力会社と契約しているメニューを確認して、単価の妥当性を検証してみる必要がある。電気料金の単価については次回に解説する。

 テナント契約では電力会社との直接契約にならないので、電気料金の値上げや値下げの影響がわかりにくい。その点で注意すべきはビル管理会社による過剰な便乗値上げである。2012年の東京電力に続いて、2013年は他の地域でも相次いで電気料金が上がる。それに合わせてビル管理会社がテナントに請求する単価を引き上げることは十分に予想される。

 ところが電気料金は過去20年ほどの間に徐々に下がってきた。2011年度(平成23年度)の企業向けの平均単価は14.6円で、1994年度(平成6年度)の17.0円と比べて14%も安くなっている(図6)。最近の値上げ分を反映しても、1994年度の水準に戻るだけだ。

図6 電気料金の推移。電力会社の販売収入を販売電力量で割った単価。「電灯」は家庭向け、「電力」は企業向け。出典:電力システム改革専門委員会

 これまでビル管理会社が単価を下げてきたのであれば、最近の電力会社の値上げに合わせて単価を引き上げるのは適正である。しかし以前から単価を変えていないにもかかわらず、今回もし単価を上げるとしたら、不当な便乗値上げの可能性がある。どの程度の値上げ率になるかも要注意だ。ビル管理会社から電気料金の単価を引き上げると通告された場合には、詳しい説明を求めるべきだろう。

連載(2):「単価を安くする対策」

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