風車落下事故の全容が明らかに、アルミ合金製の部品が硬度不足自然エネルギー(1/2 ページ)

三重県の青山高原で4月に発生した大型風車の破損・落下事故に関して、事業者のシーテックが調査結果の最終報告書を公表した。風車を制御する部品の一部が硬度の低い素材で製造されていて、異常な摩耗が生じていたことが原因だった。さらに風車の過剰な回転を防止する安全機能が不完全だったことも判明した。

» 2013年06月21日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 国内有数の規模を誇る「ウインドパーク笠取発電所」で4月7日(日)に発生した大型風車の破損・落下事故は、関係者のみならず全国の事業者や自治体に大きな衝撃を与えた。事故発生から2か月あまり経過して、発電所を運営するシーテックが専門家を交えた事故調査委員会の最終報告書を公表した。事故原因の分析結果と対策の実施状況が明らかになった。

 ウインドパーク笠取は三重県の津市と伊賀市にまたがる青山高原の一帯に、出力2MW(メガワット)の大型風車19機を配置した大規模な風力発電所である(図1)。このうち最も東側にある19号機で、4月7日の午後に事故が発生した。

図1 「ウインドパーク笠取発電所」の配置。出典:シーテック

 事故が起きた当時は発達した低気圧が通過中で、瞬間風速が毎秒40メートルを超える猛烈な風が吹き荒れていた。その強風にあおられて、直径83メートルの風車が破損し、発電設備ごと地上に落下してしまった。3枚ある風車の羽根(ブレード)は分断され、60メートル先まで飛び散っている(図2)。幸いなことに高原の中で人家に被害はなかった。

図2 事故発生後の現地。出典:シーテック

風車が毎秒1回転する危険な状態に

 一般的に風力発電設備は3つの主要な装置で構成する。発電機を内蔵した「ナセル」を中核に、風を受けて回転する「ブレード」と、ナセルの支柱になる「タワー」である(図3)。事故が起きた19号機では、タワーだけを残して、ナセルとブレードが引きちぎられたような状態で落下していた(図4)。

図3 風力発電設備の構成。出典:シーテック
図4 風力発電設備の破損・落下状況。出典:シーテック

 当日の稼働状況を見ると、最初にアラームが出たのは昼の12時28分である(図5)。ウインドパーク笠取の風力発電設備では、3秒間の平均風速が毎秒30メートルを超えるか、10分間の平均風速が毎秒25メートルを超えると、運転停止状態に移行するようになっている。ブレードを風下側にほぼ90度回転させることで、風車が回らないようにする。

図5 事故当日の異常が発生した経過。出典:シーテック

 実際にアラームを受けてブレードは運転停止状態に移行し、その後も風速に合わせてブレードの向きを適正に制御できていた。問題が発生したのは夕方の16時01分で、ブレードの1つが運転停止状態(フェザリング・モード)から通常の運転状態(ファイン・モード)に戻り、風車が回転を始めてしまった。

 続いて残りの2つのブレードも運転状態に移って、16時36分に発電機が過回転を起こす。その直後に安全装置が作動したものの、発電機を内蔵したナセルに異常な振動が起こり、16時37分には地上の変圧器が故障して電力が遮断された。この直前にナセルやブレードが落下したと考えられる。

 3枚のブレードの状況を見ると、異常が検知された16時01分に「ブレード1」の向きが運転停止状態の90度から変化し始めて、風車が回り出した(図6)。その後に「ブレード2」と「ブレード3」も90度の状態を維持できなくなり、風車の回転数がどんどん上がって、問題の16時36分には1分あたり19回転を超える「過回転」の状態に突入した。

図6 事故発生までのブレードの状態変化。出典:シーテック

 ブレードやナセルが落下する直前には毎分57回転を超え、ほぼ1秒で1回転する危険な状況が起きていた。直径83メートルもある大型の風車が1秒間に1回転する光景は想像を絶するものがある。

 風圧に加えて過剰な回転による揚力が生じた結果、ブレードがタワーの方向に傾いてタワーに接触した。その衝撃でナセルとタワーの接合部分が破損して、ブレードとナセルが脱落したものと推定されている。

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