一連の経過を見れば、事故の発端は3枚のブレードのひとつ「ブレード1」にあることが想定できる。強風時にブレードの角度を制御するのは「ピッチモーターブレーキ」と呼ぶ装置で、ブレードごとに1台ずつ付いている。回収したピッチモーターブレーキを調べたところ、ブレード1のモーター部分が大きく破損していた(図7)。
さらに、ブレードの角度を保持するためのブレーキの内部にも異常が見つかった。重要な部品のひとつに円形状の「スプライン」があるが、その周囲に付いている歯の部分が摩耗していた。しかも3つのブレード用のブレーキすべてのスプラインに摩耗が見られた。摩耗した状態のスプラインが強風による振動に耐えられなくなったことが原因で、ブレーキが働かなくなり、ブレードの角度を保持できなくなった可能性が極めて大きい。
異常が見つかったスプラインは2つの部品(オスとメス)を組み合わせて作られている。事故が起きた19号機のスプラインは、オス側が鉄を主成分にした鋼製だったのに対して、メス側はアルミ合金製になっていた(図8)。アルミ合金は鋼と比べて硬度が半分程度しかなく、硬度の差によって摩耗が進んだと考えられる。
19機すべての発電設備を調べたところ、1号機〜10号機はメス側も鋼製で異常はなかったが、11号機〜19号機はアルミ合金製だったことが判明した。報告書に記載はないが、おそらく事故機のほかにもアルミ合金製の部品に摩耗が見つかった可能性は大きい。シーテックは4月中に、硬度の高いステンレス製の部品に交換を済ませている。
なぜ硬度の低いアルミ合金を一部の発電設備に使っていたのか、製造元の日本製鋼所は理由を明らかにしていない。1号機〜10号機は2010年2月に運転を開始し、11号機〜19号機は同年12月に動き始めている。わずか10か月の違いで部品の素材が変わっている事態は不可解だ。
日本製鋼所によると、事故機と同型のピッチモーターブレーキを搭載している発電設備はウインドパーク笠取のほかにも使われていた。すべての該当する設備で同様にステンレス製の部品に交換を済ませたという。
事故機を検証した結果、別の重大な問題点も見つかった。風車の過回転を防止するために、1分間に3回転を超えると、回転数を抑えるための制御装置が働くことになっている。ところが、この装置も機能しなかった。
風速によって過回転を防止するはずの制御装置が、実はピッチモーターブレーキからのデータをもとに作動するように設計されていた。事故当時はピッチモーターブレーキに異常が生じていたために、肝心の制御機能が働かず、風車が異常な速さで回転を続けてしまった。
この問題点を解決する対策として、発電機を応用した新しい制御方法を追加することにした。モーターを使って発電機に逆方向のトルクを発生させて、回転数を抑える仕組みだ(図9)。従来のピッチモーターブレーキによる制御と合わせて、今後は2通りの方法で過回転を防止できるようになる。
シーテックは事故の原因になったピッチモーターブレーキの安全対策と過回転防止機能の追加を6月中に完了させる予定である。事故機だけではなくウインドパーク笠取の19機すべてを対象に実施する(図10)。
事故原因の分析と安全対策の実施をもとに、これから運転再開の時期を検討することになる。事前に地元の自治体や住民の理解を得る必要があり、難航することも予想される。風力発電は将来に向けた再生可能エネルギーとして期待が大きいだけに、万全の体制で運転を再開して、安定した稼働状態が長期にわたって続くことを願いたい。
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