燃料電池が自動車からオフィスまで、2020年代には普及価格へ水素エネルギーの期待と課題(4)(2/3 ページ)

» 2014年08月07日 13時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

2025年にハイブリッド車と価格競争

 自動車をはじめメリットの多い燃料電池だが、普及に向けた最大の課題はコストを下げることにある。トヨタ自動車は2015年に発売する市販車の価格を700万円程度に設定する方針で、国の補助金を使っても利用者の負担額は500万円前後になる見込みだ。市場の拡大に伴って価格が下がっていくとはいえ、しばらく時間がかかる。

 政府が掲げる目標では、2025年をめどにハイブリッド自動車と同等の価格競争力を発揮できるようにする。その前提として燃料になる水素の価格は当初から安く抑えられる見込みだ。2015年の時点でガソリン車の燃料費と同等以下に、2020年にはハイブリッド車の燃料費と同等以下に引き下げる。それぞれ水素1立方メートルあたりの価格で150円と80円を想定している。

 燃料電池の価格が量産効果で下がっていく状況は、家庭用の「エネファーム」を見るとわかる。エネファームは燃料電池自動車と同様に世界に先がけて日本国内で発売された製品だ。2009年の発売当初の価格は1台で300〜350万円だった(図5)。それが4年後の2013年の時点では200万円を切って、ほぼ半額の水準まで下がっている。

図5 「エネファーム」の価格低下と普及のシナリオ。出典:資源エネルギー庁

 さらに2016年には1台あたり70〜80万円まで低下して、補助金がなくても普及する「自立化」を実現することが政府の目標だ。国内で140万台まで普及させる想定の2020年には、50〜60万円まで引き下げる必要がある。

 燃料電池自動車の場合はエネファームよりも構造が複雑であることから、これほどの価格低下は難しいだろう。それでも2020年代に当初の半額くらいまで低下させることは十分に可能である。

 エネファームは燃料電池自動車と基本的な構造が違って、装置の内部で都市ガスやLPガスから水素を作る(図6)。その水素を燃料電池で外気の酸素と反応させて発電する仕組みだ。発電と同時に発生する熱を回収して給湯にも利用できるために、電力と熱を合わせた総合的なエネルギー効率が高くなる。

図6 「エネファーム」の発電と給湯の仕組み。出典:燃料電池普及促進協会

 燃料電池の本体でも技術革新が進んでいる。燃料電池の実現方法は何通りかあるが、現在の主流は「固体高分子形(PEFC:Polymer Electrolyte Fule Cell)」と「固体酸化物形(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)」の2種類に絞られる(図7)。それぞれの方法では、水素を酸素と反応させるために必要な電解質の素材などに違いがある。

図7 燃料電池の主な種類と特徴。出典:資源エネルギー庁

 エネファームも燃料電池自動車も固体高分子形の燃料電池を搭載している。この方式の燃料電池は低温で作動するために、家庭などで利用する装置に適している。もう一方の固体酸化物形は700度以上の高温で作動して、大容量の電力を高効率で作ることができる。

 最新のエネファームでは固体酸化物形を採用する製品が出てきたほか、オフィスビルや工場の電力源として固体酸化物形の燃料電池を導入する動きが始まっている。慶応大学が2014年6月に神奈川県のキャンパスに導入した燃料電池は200kWの発電能力がある(図8)。発電効率は最新鋭のガス火力発電設備に匹敵する60%を発揮する。

図8 慶応大学が導入した固体酸化物形の燃料電池。出典:Bloom Energy Japan

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