ゼロエネを実現するには――太陽光の電力を照明に使う蓄電・発電機器

戸田建設は直流給電装置を利用したゼロエネルギービル(ZEB)の研究を進めている。2014年8月には約半年間の運用実績の結果を発表。太陽光発電システムとLED照明を組み合わせた場合、消費電力を約10%削減できた。

» 2014年08月27日 14時30分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 ビルで使うエネルギーを、ビルが全て作り出す。これがゼロエネルギービル(ZEB)だ。ZEBを実現するには太陽光発電などの発電システムを取り付けるだけでは無理。作り出したエネルギーを貯める他、効率的に使う、断熱を工夫してそもそもエネルギーをあまり使わないビルにする、といった各種の工夫を組み合わせなければならない。

 「太陽光発電などが作りだした直流電流をそのまま使う『直流給電』がZEB実現のために必要だと考えている」(戸田建設)。理由は2つある。電力は変換するたびに少しずつ熱に変わってしまう。変換の回数を減らすには直流給電がよい。もう1つの理由は照明器具などオフィスで使う電気製品は内部で直流電流を使っていることだ。直流電流を送っても問題がない。

10%の省エネ効果あり

 戸田建設は2013年4月からZEBに関するさまざまな研究プロジェクト企画を評価し、2013年秋に直流給電のプロジェクトを開始、2014年2月に直流給電装置を導入した。東京整流器が開発した直流給電装置を興和から購入した。2014年4月から本格稼働を開始、約半年の稼働データを解析し、結果を2014年8月に発表。「既存システムと比較して約10%の省エネを実現できた」(戸田建設)。

 導入したシステムはビル全体をまかなうものではなく、太陽光発電システムとLED照明、携帯電話充電器をつなげた形になっている。ビル全体を分割し、一部で効果を確かめた形だ。

図1 太陽光発電システムと照明の電力量の関係 出典:戸田建設の資料を一部着色

 同社はある特定の1日(晴天)の電力データを公開している(図1)。図1には3種類の電力データが描かれている。濃い網が掛かっている部分は太陽光発電の出力、薄い青い部分がLED照明に使った電力量、図の右下の端に小さく黒く描かれているのが商用電力の使用量だ。つまり、太陽光発電と照明に限れば、ほぼゼロエネルギーが実現できている。

 図1から分かることはまだある*1)。8時〜17時の時間帯では太陽光発電でLED照明の消費電力を全てまかなっても余りがでること、17時以降は不足することだ。これが蓄電システムの必要な理由である。

*1) 「20時以降の照明の電力量は常用灯によるもの。電力消費量に小さな山があるのは守衛の巡回によるものだ」(戸田建設)。

電源に調光機能を持たせた

図2 茨城県つくば市と研究所の位置

 戸田建設が直流給電システムを導入したのは同社の技術研究所(茨城県つくば市要、図2)だ。「研究所の事務室や共用部に向けた設備を導入した。導入部の延床面積は約1700m2である」(戸田建設)。

 直流給電装置を導入する前と導入後のシステムの構成を図3に示す。図3上は導入前のもの。「商用電源−分電盤−機器」というどのビルでも一般的な構成に、太陽光発電システムを後付けした形だ。太陽電池が生み出した直流電流は、分電盤の前(パワーコンディショナー)と機器の直前で、合計2回、交流と変換されている。

 図3の下に示した導入後の構成は「商用電源−分電盤−直流給電装置−機器」と「太陽光発電システム−直流給電装置」という2つの部分からなる。商用電源側の変換回数は1回、太陽光側は0回だ。変換ロスが減る。

図3 直流給電装置導入前後のシステム構成の違い 出典:戸田建設

 電力を貯める仕組みもある。図中の蓄電池だ。「コストや重量、性能など顧客の要求に従って組み込む蓄電池を変更している。今回は鉛蓄電池とリチウムポリマー蓄電池の2種類を利用した」(東京整流器)。蓄電池の出力は5kW、容量は200Ah。

 今回導入した直流給電装置には、この他にもさまざまな機能が組み込まれているのだという。「研究所で利用しているLED照明は消費電力が56W(と大型だ)。そこで、調光機能を利用して消費電力を調整する必要があった。導入した直流給電装置自体に調光(を助ける)機能が付いているため、事務室では調光機能を、共用部では人感センサーを用いてLED照明の消費電力を減らしている」(戸田建設)。

 「太陽光発電システムの出力は2.4kWある。天候などによって出力電圧が120Vから350Vまで変化する。LED照明側には24Vの直流を供給するため、直流給電装置で電圧を変えている」(同社)。「今回の直流給電装置は(下限はなく)、上限は300V帯まで入力が可能だ。出力は顧客の希望によって20V帯から40V帯まで変更できる。オフィスビル1棟程度の電力まで対応可能だ」(東京整流器)。

 ZEBを実現するにはさまざまなエネルギー源が必要だ。熱の利用も考えなくてはならない。「今後は太陽光発電システムに加えて、燃料電池システムを活用し、直流給電の幅を広げていきたい。研究所では利用できる熱の量に上限があるため、出力2〜3kWの中小型燃料電池の導入が適しているだろう」(戸田建設)。

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