安くてCO2も少ない「石炭ガス化複合発電(IGCC)」キーワード解説

火力発電の依存度が高まる中で、燃料費の安い石炭火力の割合が増えている。石炭火力はCO2の排出量が問題になるが、発電設備の熱効率を引き上げればCO2と燃料の両方を削減できる。「石炭ガス化複合発電(IGCC)」を採用すると、従来の発電方法と比べて熱効率が1.3倍以上になる。

» 2014年09月12日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 日本の石炭火力発電の技術は世界でも最高の水準にある。1970年代から国を挙げて技術開発に取り組んできた結果、発電設備の性能を決める「熱効率」は着実に向上してきた(図1)。熱効率は燃料の熱エネルギー(発熱量)を電気エネルギー(発電量)に変換できる割合を表す重要な指標だ。発電設備の熱効率が高いほど、発電に必要な燃料が少なくて済み、同時にCO2の排出量も少なくなる。

図1 石炭火力発電の熱効率の向上。出典:経済産業省

 石炭火力発電の技術開発は2つの方向で進化している。その1つは発電に利用する蒸気を高温・高圧にして熱効率を改善する技術である。現在は「超々臨界圧(USC:Ultra Super Critical)」と呼ぶ方法が最先端で、熱効率を45%以上に高めることができる。

 もう1つが「石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)」だ。石炭よりも熱効率を高くできるガス火力発電では、ガスの燃焼熱で発電した後に、その熱で蒸気を発生させて2回目の発電が可能になる。「コンバインドサイクル」と呼ぶ方法で、2回の発電を組み合わせて熱効率を高くすることができる。このコンバインドサイクルを石炭にも応用した発電方法がIGCCである(図2)。

図2 「石炭ガス化複合発電(IGCC)」の機器構成(上)、発電の仕組み(下)。出典:東京電力

 IGCCは従来の石炭火力発電と比べて機器構成が複雑になる。石炭をガスに転換するための「ガス化炉」が必要で、そこからガスを受けて発電する「ガスタービン」を設置する。さらにガスタービンの排熱を利用して蒸気を発生させる「排熱回収ボイラー」をはさんで、「蒸気タービン」で2回目の発電を可能にする仕組みだ。

図3 日本で初めてIGCCの商用運転を開始した「勿来発電所10号機」。出典:常磐共同火力

 IGCCを採用した石炭火力発電の熱効率はUSCを上回って、50%近い水準まで高めることができる。現在のところ商用レベルのIGCCは福島県の「勿来(なこそ)発電所」で運転中だ(図3)。

 このIGCCの発電能力は25万kWあるが、燃焼温度が低いために熱効率は43%にとどまっている。近い将来に燃焼温度を引き上げて、熱効率を48〜50%まで改善させる計画である。

 勿来発電所は東京電力と東北電力が共同で運営している。東京電力は勿来発電所の構内に発電能力が50万kWのIGCCを新設する計画を進めていて、2020年に営業運転を開始する予定だ。この新設のIGCCでも熱効率は48%を見込んでいる。従来の石炭火力発電の熱効率は36%程度であることから、IGCCは1.3倍以上の熱効率を発揮できる。

 さらにIGCCを進化させた「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC:Integrated coal Gasification Fuel Cell combined cycle)」の開発計画もある。石炭をガス化する過程で発生する水素を利用して、燃料電池でも発電する。ガスタービン・蒸気タービン・燃料電池の3段階で発電できるため、熱効率は55%以上へ飛躍的に向上する(図4)。

図4 最先端の石炭火力発電による熱効率とCO2削減率。出典:J-POWER

 国内で初めてのIGFCは広島県にある中国電力の「大崎発電所」の構内で実現する可能性が大きい。最初にIGCCの発電設備を建設して、その後にIGFCへ拡張する計画である(図5)。IGFCの運転開始は2020年代の半ばになる見通しだ。石炭火力発電はIGCCとIGFCの進化で、ガス火力発電と同等の高い熱効率を発揮する。

図5 「IGCC実証試験発電所」の完成イメージ。出典:大崎クールジェン、中国電力、J-POWER

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