電力業界の大再編が始まる、東京と中部が火力発電事業を統合へ電力供給サービス

かねてから有力視されていた東京電力と中部電力の包括的な提携が基本合意に至った。2014年度内に折半出資の合弁会社を設立したうえで、火力発電に必要な燃料の調達から発電所の新設・リプレースまでを共同で展開する計画だ。業界1位と3位の提携は大規模な再編の引き金になる。

» 2014年10月08日 07時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 東京電力は2014年1月に策定した「新・総合特別事業計画」の中で、火力発電の競争力強化に向けて「包括的アライアンス」のパートナーを2014年度中に選定する方針を打ち出していた。3月に募集を開始して、中部電力を含む数社が応募したとみられるが、当初から中部電力が本命視されてきた。

 両社が10月7日に発表した提携範囲は文字通り包括的で、既存の設備の運営を除いて火力発電事業の全体をカバーしている(図1)。特に電力業界に大きな影響を与える点は2つある。1つはLNG(液化天然ガス)の共同調達であり、もう1つは火力発電所の新設・リプレースの共同実施だ。

図1 「包括的アライアンス」による火力発電の事業範囲。出典:東京電力、中部電力

 今後の火力発電はLNGと石炭の2つに集約される方向にある。発電効率が高いLNG火力は燃料費の削減が競争力を左右する一方、燃料費の安い石炭火力は高効率化が最大の課題だ。東京電力と中部電力のLNG調達量を合計すると年間4000万トンに達して、日本全体の調達規模の4割以上を占める(図2)。LNGの共同調達による購買価格の低減効果は発電コストの低下に直接つながる。

図2 アジアの主要国における10年後のLNG調達規模と主要な買主。出典:東京電力、中部電力

 さらに火力発電所の新設・リプレースでは、石油火力をはじめ老朽化した既存の発電所を高効率の設備に更新することが求められる。発電コストを低く抑えるためには燃料費の安い石炭火力へ移行する案が有力で、その中でも発電効率の高い「石炭ガス化複合発電(IGCC)」が今後の主流になる見込みだ。IGCCの実用化では東京電力が先行していて、包括的アライアンスによって中部電力もIGCCへ移行しやすくなる。

 LNGの共同調達と発電所の共同展開を通じて、東京電力と中部電力の火力発電事業が競争力を高めることは確実である。すでに東京電力は発送電分離に向けて、火力発電・送配電・小売の3つの事業でカンパニー制をとっている。さらに2016年4月には3つの事業会社に分割して、2018年にも実施される発送電分離を先取りする方針だ(図3)。

図3 発送電分離に向けた東京電力の組織改革プラン。出典:東京電力

 2016年4月の小売全面自由化の時点では、中部電力と共同で設立する新会社、既存の発電所を運営する火力発電事業会社の2つが併存して、それぞれ発電事業者として登録する見通しである。さらに中部電力の火力発電事業部門を加えた3つの発電事業者が連携して他の発電事業者と競争する。火力発電で4割超のシェアをもつ巨大な事業グループが誕生することになる。

 業界2位の関西電力を筆頭に、沖縄を除く7つの電力会社も対抗策を迫られることは必至だ。日本の中央部を占める2社が提携した後には、各社の選択肢は限られてくる。地域間の連携を考えると、北海道・東北グループ、関西・北陸・中国・四国・九州グループといった連合体に発展する可能性が大きい。いよいよ電力業界の大再編が始まる。

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