小水力発電をダムに展開、サイフォン式やバルブ式で水流を生かすエネルギー列島2014年版(35)山口(1/2 ページ)

山口県には大小を合わせて483本の川が流れている。流域には数多くのダムが設けられて水力発電が盛んだ。それでも利用していない水流が多く残っていることから、小水力発電が広がってきた。水流の落差が小さい場所にサイフォン式の取水設備を採用するなど、独自の試みに注目が集まる。

» 2014年12月16日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 山口県の企業局は県内に11カ所の水力発電所を運転中で、すべての発電能力を合計すると5万kWを超える(図1)。年間の発電量は1億8000万kWhに達して、一般家庭の使用量に換算すると5万世帯分の電力を供給できる能力がある。

図1 山口県営の水力発電所。出典:山口県企業局

 その中で最も規模が大きいのは、1975年から運転を続けている「新阿武川(しんあぶがわ)発電所」である。中国山地から日本海まで流れる阿武川の中流に設けた大きなダムの直下にあって、発電能力は最大で1万9500kW(19.5MW=メガワット)におよぶ(図2)。

図2 「新阿武川発電所」の全景。出典:山口県企業局

 こうした大規模な水力発電所は大量の水を一気に流して発電するため、下流の水量が不安定になってしまう。そこで発電所の下流に小規模なダムを造り、一定の量を常に放流して自然環境を保護する必要がある。新阿武川発電所の下流には「相原ダム」が設けられているが、そこから放流する水は流すだけで発電には利用していなかった。

 というのも相原ダムには大きな高低差がなく、水力発電には向かない構造になっているからだ。新たにサイフォン式の取水設備を導入することにより、約4メートルの落差を作って発電が可能になった。山口県の企業局が22年ぶりに新設した「相原発電所」は2014年5月に運転を開始した(図3)。

図3 「相原発電所」の全景(左上)と水車発電機(右上)、サイフォン式の取水方法(下)。出典:山口県企業局

 発電機には縦軸のポンプ逆転水車を採用して、最大で82kWの電力を供給することができる。年間の発電量は33万kWhを見込み、一般家庭で90世帯分に相当する。固定価格買取制度を通じて1kWhあたり34円(税抜き)で売電できるため、年間に約1100万円の収入を得られる見通しだ。発電設備の建設費は1億3500万円かかった。運転維持費を低く抑えれば、買取期間の20年以内に投資を回収することができる。

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