家庭用のエネファームから次世代のエコカーまで、「燃料電池」を搭載した製品が我々の身の回りに広がってきた。燃料電池は水素と酸素が化学反応を起こして電気を発生させることから電池の1つに位置づけられている。燃料を補充するだけで発電を続けられる点が従来の電池にない最大の特徴だ。
「燃料電池」の英語表記は「fuel cell」で、通常の電池を意味する「battery」と違う用語を使う。正確な理由はわからないが、電池の中に入っている電解液を「fuel」と呼ぶことがあるため、それと混同しないように「fuel battery」ではなくて「fuel cell」を採用したようだ。ただし基本的な原理は似ていて、2種類の物質が化学反応を起こして電気を発生させる。
燃料電池の最大の特徴は、燃料を補充して発電を繰り返せる点にある。その代わりに蓄電池のように電力を貯めておくことはできない。こうした特性を生かして、発電機に近い用途が中心になる。
実は燃料電池で走る自動車にも補助用のバッテリーがある(図1)。トヨタ自動車の「MIRAI」はニッケル水素電池をバッテリーに使って充電と放電ができるようになっている。電気自動車のバッテリーに比べると容量は小さいが、短距離であればバッテリーだけでも走ることが可能だ。
燃料電池は発電量を大きくするために、水素と酸素の化学反応を起こす基本単位の「セル」を積み重ねた「スタック」で構成する。家庭用の「エネファーム」でも内蔵している発電装置を「燃料電池スタック」と呼ぶことが多い(図2)。あるいは英語を略して「FCスタック」と表記する場合もある。
スタックの中のセルの数を増やしていくと、発電量が大きくなる。エネファームの発電能力は1kW以下だが、MIRAIに搭載している燃料電池スタックは最大で114kWの電力を供給できる。さらに業務用の燃料電池では発電能力が200kWに達する製品もある(図3)。内部には数1000個のセルを内蔵している。
このほかにガスタービンと燃料電池を組み合わせたハイブリッド型の発電システムの開発も進んでいる。三菱重工業が実証運転中の発電システムは都市ガスを燃料にして、2種類の装置(ガスタービンと燃料電池)で発電する仕組みだ(図4)。水素はエネファームと同様に都市ガスから取り出す。このシステムは250kWの電力と合わせて熱も供給できるコージェネレーション方式で、工場などの産業用に向いている。
燃料電池で電気を発生させるためには「電解質」が欠かせない。この電解質の種類によって作動する温度や発電の効率に違いがある。家庭用や自動車用の燃料電池は作動温度が低い「固体高分子形(PEFC)」、業務用や産業用は作動温度が高い代わりに発電能力を大きくできる「固体酸化物形(SOFC)」が現在の主流だ(図5)。SOFCの電解質にはセラミックが使われている。
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