「水素」で走る燃料電池車、普及に向けた国内3社の動き電気自動車(1/2 ページ)

次世代自動車として燃料電池自動車(FCV)の普及に向けた動きが活発化してきた。FCVに取り組むトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車の動向をまとめた。

» 2015年04月03日 07時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 次世代自動車として燃料電池自動車(FCV)の普及に向けた動きが活発化している。FCVの燃料源となる水素は、石油や天然ガスなどの化石系、バイオマス、太陽光、風力といった再生可能エネルギーから製造可能で、しかも走行中の二酸化炭素の排出がないなど、地球温暖化などの環境問題の解消策として大きな期待を集めている。

 環境対応自動車では、電気自動車などが先行していたが、充電時間に長い時間が必要となる点や、走行距離がガソリン車に比べて短いという根本的な技術的課題を解決するめどが立たないため、ここにきてFCVへの注目度が急速に高まってきた。

 FCVは、ガソリン車並みの走行距離を実現できる他、モーター駆動での静かな走行、水素充填時間が比較的短い点、非常時の電源供給が可能な点など多くの利点を持つ。普及に向けては技術革新による低コスト化、水素インフラの構築、高圧水素の安全性の社会的認知など課題も多いが、参入各社では積極的な技術開発が進められている。

 自動車メーカーでは性能・安全性・耐久性を高めるとともに貴金属材料の削減による低価格化を推進している。また、四大都市圏を中心に2015年末までに水素ステーションを100カ所整備するという目標のもと、水素の供給体制も急ピッチで構築が進んでいる。これらの動きとともに、国内大手自動車メーカー各社ではこれまで積み重ねてきた技術をもとにFCVの実用化に力を注いでいる。

果敢な動きを見せるトヨタ

 FCVの実用化が最も進んでいるのがトヨタ自動車(以下、トヨタ)だ。2014年の12月にセダンタイプの新型FCV「ミライ(MIRAI)」を発売。2015年秋ごろには米国・欧州市場への投入も計画している(関連記事:エネルギー問題を助ける「水素」、燃料電池車に弱点はないのか)。

photo トヨタ自動車が発売した燃料電池車「MIRAI」

 車両価格は670万円(消費税別)で日本での販売目標台数は2015年度末(2016年3月期)までに約400台としていたが、発売から約1カ月の時点での受注は約1500台に達したという。年間生産台数は、2015年は700台、2016年は約2000台、2017年は約3000台へと段階的に増やしていく方針だ。

 ミライは自社開発の新型トヨタFCスタックや高圧水素タンクなどで構成する燃料電池技術とハイブリッド技術を融合した「トヨタフューエルセルシステム」を採用。内燃機関に比べてエネルギー効率が高く、3分程度の水素の充填で十分な走行距離を得られるなど、ガソリンエンジン車と同等の利便性を備えた。また、操縦安定性を高めた走りの楽しさ、停電や災害などの非常時に使える大容量外部電源供給システムや専用通信サービスの設定などの特徴がある。

 駆動用のモーターはコスト低減を図るためハイブリッド車用の量産品を採用。駆動するためにはそのモーターの電圧を2倍以上に引き上げる必要があるため、今回FC昇圧コンバータを開発し、搭載している。高圧水素タンクは2000年から自社開発を行っており、新型車では炭素繊維強化プラスチック層構成の革新により軽量化を行った。トヨタ自動車ではFCVの初期市場の創出に向けて重要となるポイントとして水素ステーションの整備、低価格の水素の供給を挙げており、グループ会社が2013年度から愛知県内で整備を開始している。

 さらに、2015年1月には燃料電池に関連する内外特許約5680件を無償公開することを発表するなど、市場創出に向けた果敢な動きが際立っている(関連記事:トヨタの燃料電池車特許の無償公開に見る、4つの論点)。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.