ダムの改良工事に合わせて小水力発電も、国と県の連携で2200世帯分の電力自然エネルギー

小水力発電が盛んな栃木県で国と県の連携による新しいプロジェクトが始まる。完成から50年以上を経過したダムの設備を改良する国の事業に合わせて、県が小水力発電所を建設する計画だ。落差が72メートルある維持流量を利用して、年間に2200世帯分の電力を作ることができる。

» 2015年04月15日 13時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
図1 「五十里ダム」の位置。出典:国土交通省

 観光地として有名な栃木県の日光市には川と湖が多く、小水力発電の導入可能量は県内で最大だ。市内を流れる鬼怒川(きぬがわ)の上流に「五十里(いかり)ダム」があり、このダムの直下に小水力発電所を建設する計画が進んでいる(図1)。

 五十里ダムは1956年に完成した当時、日本で最も堰堤(えんてい)が高いダムで、高さは112メートルもある(図2)。ダムの貯水機能により下流の洪水を防ぐのと同時に、農業用水と発電用水を供給する多目的ダムだが、貯水池の水が長期にわたって濁る問題が発生していた。

図2 「五十里ダム」の全景。出典:国土交通省

 ダムを運営する国土交通省は2015年度から堰堤の改良事業を開始するのと合わせて、栃木県と連携して小水力発電事業に着手する。改良事業のうち、貯水池の上部の水を取り出して放流する設備を国土交通省が建設する一方、その放流を利用した小水力発電を栃木県の企業局が実施する体制だ(図3)。

図3 「五十里ダム堰堤改良事業」の設備イメージ。出典:国土交通省

 発電設備はダムの堰堤の最下部に設置して、落差72メートルの水流で発電する。水量は1秒間に2立方メートルで、発電能力は1100kW(キロワット)になる。年間の発電量は800万kWh(キロワット時)を見込んでいて、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して2200世帯分に相当する。水量が安定している維持流量を利用するため、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は83%と高い。

 2015年の秋に発電機の製造に入り、2017年度から現地で工事を開始して、2018年度末に運転を開始する予定だ。発電した電力はダムで消費する1割弱を除いて、固定価格買取制度で売電する。発電能力が1000kW以上の水力発電の買取価格は1kWhあたり24円(税抜き)で、発電量の9割を売電すると年間に約1億7000万円の収入になる。栃木県が発電所の建設にかける事業費は約9億2500万円を想定している。

 一方、国土交通省は2015年度に3億7000万円の予算を確保して堰堤の改良事業を進めていく。貯水池の上部のきれいな水だけを取り出す「選択取水」を可能にして、下流に流す水の質を改善する(図4)。新設する小水力発電所の電力をダムで利用することにより、維持管理費の低減と災害時の電源確保にも生かす。

図4 「選択取水」の仕組み(左)と設備イメージ(右)。出典:国土交通省

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