電力の自給率70%を突破、木質バイオマスで地産地消が加速するエネルギー列島2015年版(16)長野(1/3 ページ)

2030年に再生可能エネルギーによる電力自給率100%を目指す長野県でバイオマス発電が活発だ。燃料の木質チップからガスを生成して、電力と熱の両方を供給するコージェネレーションの導入が相次いで始まった。全国でトップクラスの小水力発電に加えてバイオマスと太陽光で自給率を高める。

» 2015年08月04日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 長野県の南部に細長く伸びる伊那谷(いなだに)の一角で、「かぶちゃん村森の発電所」が6月に運転を開始した(図1)。周辺の森林から出る間伐材のチップを燃料に利用したバイオマス発電所で、ガスを発生させて電力と熱を作ることができる。いわゆるコージェネレーション(熱電併給)システムである。

図1 「かぶちゃん村森のバイオマス発電所」の全景(上)、木質チップの格納状況(下)。出典:ZEエナジー

 発電能力は360kW(キロワット)で、1日24時間の連続運転が可能だ。年間に330日の稼働を予定していて、発電量は285万kWh(キロワット時)になる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して800世帯分に相当する電力を生み出すことができる。

 当面はかぶちゃん村の娯楽施設などで自家消費しながら、10月末には固定価格買取制度を通じて売電する予定だ。全量を売電すると年間の収入は1億円になる。さらに電力のほかに発電時に生じる排熱を木質チップの格納庫に送って、燃料のチップを乾燥させる用途に生かす。

 導入したバイオマス発電システムにはガス化装置が組み込まれている(図2)。木質チップを800度以上の高温で燃焼させて、ガスを生成してから発電することができる。ガス化することで通常のバイオマス発電と比べてCO2の排出量が少なくて済み、電力と合わせて熱を利用できるためにエネルギーの利用効率は最大で80%に達する。森林資源を有効に活用したエネルギー地産地消の取り組みである。

図2 バイオマス発電システムの構成(画像をクリックすると拡大)。出典:かぶちゃん電力

 これと同じ方式の発電設備は県中部の安曇野市(あずみのし)にある野菜工場でも導入計画が進んでいる。産業用のガスなどを製造・販売するエア・ウォーターが運営する「安曇野菜園」で、電力と温水に加えて燃焼時に排出する二酸化炭素をトマトの光合成に利用する点が大きな特徴だ(図3)。3種類のエネルギーを活用できることから「トリジェネレーション」と呼ぶ。

図3 木質バイオマスによるトリジェネレーションを実施する「安曇野菜園」のハウス栽培。出典:エア・ウォーター

 木質チップの加工を含めて一貫体制を構築するために、菜園の近くにエネルギーセンターを建設する。発電能力は1.9MW(メガワット)で、かぶちゃん村の5倍以上の規模になる。熱の供給能力は電力に換算すると2倍の3.8MWもあって、この熱で温水を作ってハウス栽培に利用する。エネルギーセンターは2016年3月に完成する予定だ。

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