電力の自給率70%を突破、木質バイオマスで地産地消が加速するエネルギー列島2015年版(16)長野(2/3 ページ)

» 2015年08月04日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

下水処理場の燃料電池にバイオガスを

 長野県は面積の78%を森林が占めている。森林の面積は北海道と岩手県に次いで全国で3番目に広い。林業を活性化することは地域の重要な課題の1つで、2013年から「信州F・POWERプロジェクト」を官民共同で推進中だ。長野県と塩尻市が支援して、地元の征矢野(そやの)建材が県内で最大規模の木材加工施設とバイオマス発電施設を建設する(図4)。

図4 「信州F・POWERプロジェクト」の全体像。出典:長野県林務部

 発電設備の規模は14.5MWを予定していて、投資額は65億円を見込んでいる。塩尻市内にある19万平方メートルの市有地に、貯木場から加工施設、チップの製造・格納施設まで備える壮大なプロジェクトだ(図5)。製材用と発電用の合計で年間に20万立方メートルを超える原木を利用する計画である。当初は2015年4月に稼働する予定だったが、事業費がふくらんで2017年4月に延期になった。

図5 建設状況(上、2014年12月時点)、各施設の配置(下、画像をクリックすると拡大)。出典:長野県林務部

 すでに木材加工施設の建設は始まっている。発電設備を加えたプロジェクト全体の総投資額は126億円にのぼる。このうち5億円を環境省が推進する「地域低炭素化出資事業基金(グリーン・ファンド)」から出資を受けた。国も支援しながら森林の保全と再生可能エネルギーの拡大に取り組んでいく。

 バイオマスでは下水の汚泥を活用した発電設備もある。塩尻市と安曇野市のあいだに広がる松本市の「両島(りょうしま)浄化センター」で、汚泥から生成したバイオガスを使って電力と温水を供給している。発電能力が105kWの燃料電池3台を導入して2015年2月に運転を開始した(図6)。

図6 燃料電池を採用した「両島浄化センター」のバイオガス発電設備。出典:メタウォーター

 この発電設備では下水の汚泥からバイオガスの1種である消化ガスを発生させて、消化ガスから水素を取り出して発電する(図7)。通常のバイオガス発電はガスタービン発電機を使うために騒音や排気ガスの問題があるが、燃料電池は水素と酸素を化学反応させて発電する方式で環境面でも優れている。

図7 バイオガスの生成から発電までの流れ(画像をクリックすると拡大)。出典:メタウォーター

 一連のプロセスはガスと水を効率よく循環させるシステムで構築した。汚泥を発酵させて消化ガスを発生させるためには、高温の状態を保つ必要がある。燃料電池の熱で高温水を作って汚泥を発酵させる一方で、熱を使った後の低温水を燃料電池に供給して冷却に利用する構造になっている。

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