小水力発電とメガソーラーが農山村を変える、下水バイオガス発電も活発エネルギー列島2016年版(9)栃木(1/3 ページ)

農山村を「スマートビレッジ」へ発展させる構想を進める栃木県では、小水力発電の電力を電気自動車に蓄電して農業施設に供給するモデル事業を実施中だ。高原地帯ではゴルフ場の跡地が続々とメガソーラーに生まれ変わり、都市部には下水の汚泥を利用したバイオガス発電が広がっていく。

» 2016年06月21日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 栃木県は東日本大震災の直後から、農山村を対象にエネルギーの地産地消を推進する「スマートビレッジ」の拡大計画に取り組んできた。そのモデル事業の先駆けになったのが「鬼怒中央飛山(きぬちゅうおうとびやま)発電所」で、2012年3月から運転を続けている(図1)。

図1 「鬼怒中央飛山発電所」の全景と水の流れ(画像をクリックすると拡大)。出典:栃木県農政部

 この小水力発電所は宇都宮市内を流れる農業用水路に設置した。発電能力は2.5kW(キロワット)と小規模ながら、農山村で再生可能エネルギーを有効に活用するための工夫が随所に見られる。蓄電池と急速充電器を発電所に併設して、小水力発電で作った電力を電気自動車に供給できるようにした(図2)。全国で初めての試みである。

図2 発電した電力を電気自動車に充電して農業で利用(画像をクリックすると拡大)。出典:栃木県農政部

 同じ市内にある農業大学校まで電気自動車で電力を運び、園芸施設や酪農施設で利用する。災害が発生して電力の供給が止まっても農作物や家畜の育成に影響を及ぼさない仕組みを構築した。このほかに電気自動車から電動草刈機に充電できるようにするなど、再生可能エネルギーを利用して農作業に伴う燃料費とCO2排出量の削減に取り組んでいる。

 小水力発電で工夫した点の1つに、ゴミ処理の効率化がある。農業用水路には木の枝をはじめさまざまなゴミが流れていて、水車の回転を妨げてしまう状況が頻繁に発生しかねない。そこで水車の上部に除塵機を設置して、農業用水路を流れてくるゴミを除去できるようにした(図3)。

図3 農業用水路を流れるゴミを除去する除塵機。出典:栃木県農政部

 鬼怒中央飛山発電所に設置した除塵機は材質を金属からプラスチックに変更したほか、先端部を下に向けてゴミを落ちやすくするなどの改良を加えた。この結果、人手でゴミを除去する作業は1年間に3回程度で済み、発電機の停止や発電量の低下は1度も発生していない。小水力発電の運転維持費を軽減できるうえに、年間を通して安定した電力の供給が可能なことを実証した。

 農山村の小水力発電はダムでも始まろうとしている。栃木県の北部にある「五十里(いかり)ダム」は60年前の1956年に完成して、当時は日本で最も高い112メートルの堤体で造った(図4)。しかし洪水時にたまった水が濁ってしまい、下流の農業用水路などに供給する水質を悪化させる問題が生じていた。

図4 「五十里ダム」の全景。出典:国土交通省

 この問題を解消するため、ダムの取水設備と放水設備を更新するのと同時に、放流する水を利用して小水力発電を実施することにした。ダムから水を取り込む位置を調整できる選択取水設備を導入して、水が濁っている場合には上部から汚れのない水を取り入れる。取水設備の下に放流設備を新設して水車発電機に水を送り込む方式だ(図5)。

図5 水力発電設備の導入イメージ(上)、選択取水設備の仕組み(下)。出典:国土交通省

 ダムからの高い落差を生かして発電能力は1100kWと大きい。年間の発電量は800万kWh(キロワット時)を見込んでいて、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して2200世帯分の電力を供給できる。栃木県が9億2500万円を投入して実施する発電事業で、2018年度末に運転を開始する予定だ。

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