ニワトリ小屋との共通点は? 効率21.7%のペロブスカイト太陽電池太陽光(1/3 ページ)

ペロブスカイトと呼ばれる材料を2種類使った太陽電池セル。米国の研究者が開発した構造だ。原子1層の厚みからなる網を使って、2種類の材料からなるサンドイッチ構造を作成。全ての太陽光を効率よく電力に変換することに成功し、記録を更新した。

» 2016年11月16日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 現在の太陽電池の研究開発において、最も改善が著しいのが「ペロブスカイト太陽電池」だ。2009年当時、4%に達しなかった変換効率が現在20%を超えている。

 カリフォルニア大学バークレー校は、2016年11月7日、ペロブスカイト太陽電池の効率をさらに高める手法を開発。試作セルで最大21.66%を実現した(図1)*1)

 発表資料の中で、同校の物理学教授であり、Kavli Energy Nanosciences InstituteのメンバーであるAlex Zettl氏は次のように主張する。「21.7%という効率は、これまで発表されたペロブスカイト太陽電池セルのうち、最も高い数値だ。(太陽電池セル表面に効率を高めるための)反射防止膜を設けていない段階での記録である」。

 同校の物理学の大学院生であり、Nature Materials誌に掲載された論文*2)の筆頭筆者でもあるOnur Ergen氏は発表資料の中でこう述べた。「市場で最も安価な太陽電池セルとなる潜在能力があり、家庭向けの太陽光発電システムに導入される可能性もある」。

 同校によれば、ペロブスカイト太陽電池セルの市場投入が、2017年にも始まる見込みだ*3)

*1) セル面積は0.07平方センチメートル。1平方センチメートル当たりの短絡電流42.1ミリアンペア、開放電圧は0.688ボルト、曲線因子(FF)は0.75。
*2) "Graded bandgap perovskite solar cells".(Onur Ergen et al.,2016)
*3) 例えば英国でペロブスカイト太陽電池の研究開発を続けるOxford Photovoltaicsは2016年10月に2100万ポンド(約27億円)の資金調達に成功したことを発表。同11月16日にはドイツBosch Solar CISTechから工場を買収し、パイロット規模でペロブスカイト太陽電池の製造を開始すると発表している。

図1 試作した太陽電池セルの外観 セルの電流密度がペロブスカイト太陽電池セルとして高いことが特徴。最適動作点における出力電圧は約0.5ボルト 撮影:Onur Ergen氏、出典:University of California at Berkeley

太陽光をより効率よく電力に変える

 ペロブスカイト太陽電池に用いる物質は、光を吸収しやすく、高い変換効率を実現しやすい性質を備えている。さらに発電層の製造時に高温プロセス、真空プロセスを必要とせず、短時間で製造できるため、低コスト化への道筋を描きやすい。フレキシブル基板上に積層することも可能だ。

 今回の試作でも発電層をスピンコート法で形成し、安定化のための温度は最大80℃と低い。スピンコート法とは液状の材料を回転する基板に垂らして薄膜を作る単純な手法。

 ペロブスカイト太陽電池の変換効率をさらに高めるためには、幾つかの手法がある。いずれも基本となるのは、複数の発電層を垂直に積み重ねる手法だ(多接合太陽電池)。まずはシリコン太陽電池や化合物太陽電池などと組み合わせる手法がある。

 もう1つは吸収する光の範囲が異なるペロブスカイト材料を積層する手法。

 製造コストを低減し、高い変換効率を実現するには、後者の方法が適しているように見える。だが、バークレー校の研究者によれば、成功事例がなかった。異なる2層のペロブスカイト材料を積み重ねた試作品の変換効率は、7%にとどまっていたという。これでは逆効果だ。

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