コンロでスマホが充電できる、中高温域で使える熱電素子を新開発蓄電・発電機器

古河電気工業は200〜800度の中高温度帯で発電できる熱電変換素子を開発した。シリコンを主原料とし、有害物質を含まないのが特徴で、ガスコンロなどに取り付ければスマートフォンなどの小型機器の充電も可能だという。

» 2017年11月21日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 使われることなく放出されている未利用の熱を、再びエネルギーとして利用できるようにする熱電変換技術の研究開発が進んでいる。古河電工は2017年11月17日、200〜800℃の中高温域で、熱電変換を実現するクラスレート焼結体U字素子を開発したと発表。有害物質を含まないシリコンクラスレート系化合物の熱電変換素子が中高温度帯で発電したのは世界で初めてとしている。工業炉や自動車エンジンの排熱など、中高温域の未利用熱を電力に変換できる高出力熱電発電モジュールや、民生分野などへの応用を目指す方針だ。

 熱電変換技術は、異なる2つの半導体や金属に温度差を与えると電力が発生する「ゼーベック効果」を利用する場合が多い。これにより排熱から直接電力を得ることができる。しかし工場や自動車の排熱などに多い、200〜800℃の中高温域で熱電性能が高い材料は、鉛、テルル、アンチモン、セレン、タリウムなど、毒性が高く希少な低融点の元素から構成されるものがほとんどだった。そのため、これらの元素から構成される熱電変換材料は、空気中での使用に工夫が必要になるなどの理由から、広く利用されるには至っていない。

 一方、古河電工が今回開発した素子は、豊富に存在するシリコンを主原料としている。P型、N型ともに同系のシリコンクラスレート化合物で構成しているため、線膨張係数などの物性値に大きな差異が無い。さらに、従来の熱電変換モジュールにある高温側の金属電極と絶縁性基板を無くした設計とすることで、高温耐性が得られたという。

今回開発した「クラスレート焼結体U字素子」と従来のデバイス構成との比較 出典:古河電工

 この素子をろうそくなどの炎にかざすと50mVの電圧が得られるとしている。なお、この素子を8個用いて、低温側に金属電極を配し、電気的に直列に、熱的に並列に配置した、8対のハーフスケルトンモジュールを開発し、実際にろうそくの外炎(約800℃)にかざす実験も実施。すると、小型のモーターを回転させることに成功したという。これによって、特別な集熱や放熱、大気暴露防止のための補助部材がない状態でも、発電できることが確認できた。

ろうそくの外炎で、モーターが駆動する様子 出典:古河電工

 古河電工は今回の成果について、自動車や工場などの排熱分野だけでなく、他分野へも応用可能としている。その一例として、カセットコンロを利用した小型発電システムを提案している。コンロの炎の外側に沿うように素子を高密度に配置することで、スマートフォンなどの小型電子機器を充電できるシステムが可能という。

コンロを利用した熱電素子の応用例 出典:古河電工

 今後は工業炉や自動車エンジンの排熱など200〜800℃の中高温域で未利用熱エネルギーを電力に変換する高出力熱電発電モジュールの実現を目指す。材料開発においては、電気抵抗率の上昇を抑える技術の確立を目指す方針だ。

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