急増する太陽光発電の「雑草トラブル」、知っておきたいリスクと対策基礎から学ぶ太陽光発電所の雑草対策(1)(1/4 ページ)

日本でも稼働から数年が経過する太陽光発電所が増える中、課題の1つとなっているのが雑草対策だ。太陽光発電の雑草対策を手掛ける野原ホールディングスが、知っておくべき雑草に関する基礎知識や対策方法を解説する。

» 2018年04月11日 07時00分 公開

急増する太陽光発電所の雑草トラブル

 野原ホールディングス 事業開発部 再生エネルギープロジェクト(以下野原HD再エネPJ)では、太陽光発電事業者に向けて、事業計画支援、コンサルティング、調査・検査・非破壊検査、O&Mサービス、標識製造販売、発電事業管理システムなどを開発・提供しています。

 その中でも、近年問い合わせが増えているサービスの1つが、「雑草対策」です。発電事業者、O&M企業、EPC企業の方から、雑草対策、雑草による発電事業の阻害、および近隣・地域への対策、土砂流出対策、法面崩落対策などの質問・相談を受けるケースが急増しています。

雑草に埋もれる太陽光発電所

 その中で、われわれに相談が寄せられる雑草対策に関するトラブル・懸念内容のベスト10は、以下の通りです。

  1. 草刈り回数が増えて予算オーバーになっている
  2. 年々雑草が増え、発電量への悪影響が増えている
  3. 地域から景観が悪いと苦情が出ている
  4. 防草シートを敷いたが、数カ月で多くの雑草が生え、効果がない、景観が悪い
  5. 除草剤を散布して、全ての植生を枯らしてしまった結果土砂が流出してしまった
  6. 草刈機でケーブルを切断・バックシートを傷つけて事故を起こした
  7. アブラムシが大量発生し、近隣の農家や住宅地から苦情があった
  8. イノシシのふん臭で、稲作がだめになったので買い取ってほしい
  9. 種子吹き付けなどの緑化対策をしたが失敗した
  10. 大麻や芥子(ケシ)が植生してしまった

 発電所ごとに置かれている気候・環境や設備の状況は異なるため、上記のように各現場で起こる雑草に起因したトラブルもさまざまなものがあります。寄せられる相談の中には、既にこうしたトラブルに対して専門業者に対策を依頼したものの、思っていたような効果が得られなかったという話も多くあります。稼働から数年が経過した発電所が増える中、不適切で非経済的な雑草対策に起因した、発電事業と業者間のトラブルが絶え間なく続いている状況のようです。

なぜその雑草対策は失敗してしまったのか?

 発電所ごとに周辺環境や設備の状況は異なるため、各現場で起こる雑草に起因するトラブルの種類もさまざまです。そのため、特に複数の発電所を所有している方にとっては、画一的な対策が行いにくいのが現実です。

 ひとくくりに雑草と言っても、その種類は多種多様。さらに日本は、北は北海道から南は沖縄まで、南北に長い国土のため、同じ種類の雑草でも、分布や生育時期も大きく異なってきます。また、地域、地点による降雨量、地・土質(粘土、砂質、PHなど)、平均気温の違いなども、植生(ある対象地域に生育している植物の集団)の発生や生育に大きな影響を及ぼします。

 加えて、一群に植生している草には1つ1つに名前・学術名があり、それぞれ特徴があります。草ではなく、樹木の苗、竹、笹(ささ)の場合もあります。植生により発生する害虫(人・作物・樹木)や病気も大きく違ってきます。もちろん、こうした植生やその種類によって、最適な対策方法は異なります。

 つまり、どういった種類の雑草が、どのような状況を引き起こしているかなどの情報を正しく捉えなければ、適切な対策を立てられず、結果的に無駄な時間や費用が発生してしまいます。上述したようにさまざまな種類の雑草がある中で、その場所に植生している数々の草の一群をまとめて“雑草”と捉えて対策を行おうとする場合も同様です。先述した発電事業者と対策業者間で起こるトラブルの背景には、こうした現場の詳細な情報を把握せず、不適切な対策を実施してしまっているケースが多くみられます。

 野原HD再エネPJでは雑草対策について、「雑草=太陽光発電所の運営を阻害するやっかいな存在」ではなく、「雑草=太陽光発電所運営を支援するもの=有益な存在にする」という目標を掲げています。雑草も、植生によってはより有益な場合があり、単に全てを駆除すれば良いというわけではないからです。

 野原HD再エネPJの場合は、まず、必ず植生が存在している5〜9月頃に現地調査を実施します。植生(草種)だけを見るのではなく、「土」「周辺の環境・植生」を確認した上で、現状分析だけでなく、今後の予測も行います。この結果に基づき、対策に必要な工法や作業をまとめ、契約前に事業主の方に対策の効果、コスト、デメリットなどを記載した提案書を提示しています。特にコストとデメリットについては単に雑草対策ではなく、基礎、架台、太陽電池モジュール、フェンス、パワコン、キュービクルへの影響などのメリット、デメリットや、土砂流出、近隣への配慮についても説明しています。

 本連載ではこうした太陽光発電所に関連する、雑草対策に関する知識や対策手法について解説していきます。とはいえ、発電事業者の方などが、われわれのように“雑草の専門家”になる必要はあまり無いと考えています。しかし、雑草対策の基本的な知識や理解が深まると、われわれのような業者に対し、相互理解が深まります。その結果、適切でより効率的な対策により、さらに進化し、安全・安心な発電事業の運営や、農家や住民など近隣の方との良好な関係が築けるのではないかと考えています。さらに高齢化、人口削減による人材不足による荒廃する里山、増大する耕作放棄地などへの対策にも役立てば幸いです。

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