変化する消費と社会、「共感の時代」に求められるエネルギー事業とは何かエネルギー×イノベーションのシナリオ(3)(1/3 ページ)

電力・ガスの自由化が始まった日本で、今後のエネルギーを基軸とした社会イノベーションのシナリオを考察する本連載。最終回となる本稿では、小売領域に起こり得る今後の市場変化と、その先にあるイノベーションのシナリオについて解説する。

» 2018年06月12日 07時00分 公開

 2016年4月の電力小売全面自由化により、新規事業者の参入が相次いでいる(2018年4月12日時点で計468事業者)。一方で、スイッチング率でみると、地域ごとに差はあるものの、全世帯数に対する変更割合で10%(みなし小売電気事業者内のスイッチング件数が約4.5%を含む)を超えた程度であり、依然として大多数の需要家が旧一般電気事業者(みなし小売電気事業者)から電力を購入している状況である。

電力小売全面自由化以降のスイッチング件数の推移 出典:経済産業省

 これは、ベースロード電源などにおける新規事業者の供給力、ひいては競争力の確保といった問題が大きく関係しているものの、それ以上に新規事業者からの新しい価値提案や他社との明らかな差別化ポイント、魅力的な料金プランといった訴求力が十分でないことを示しているものと考えられる。小売事業者の顧客が、単に電気を欲する「需要家」ではなく、電気を利用して生活する者であることから、以降では、「生活者」と呼び方を変え、将来に向けたシナリオ(仮説)について紹介する。

 また今回、生活者側に焦点を当てたシナリオにフォーカスするため、小売事業者が供給力確保(特に新たな市場の活用)や計画値同時同量の順守といったサプライチェーン面にどう対処していくのかについては省略する。

※出所:経済産業省 エネルギー資源庁、登録小売電気事業者一覧(http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/retailers_list/)

共感の時代における生活者像

 まず重要なのが、生活者が事業者をどう選択するかである。将来ますます物質的に豊かになり、モノでの究極的な差別化が困難(模倣可能)になることから、昨今の消費トレンドでもある「共感」の大きさが、今後のインフラ事業者選択に多大な影響を及ぼすものと予想される。つまり、生活者は、「事業者に対する共感」と、直接的な差別化要素となる「生活者への提供価値」を掛け合わせた大きさで事業者を選ぶようになるのではないかと考えられる。

ソーシャルメディアも無視できない存在に

 この数式で考えると、共感できない事業者(ゼロ)が、いくら高付加価値なサービスを提供したとしても生活者からは選ばれないことになる。一方で、共感度が高い事業者は多少提供価値が低くても(多少料金が高くなっても)、生活者から選ばれる可能性はあるということである。共感の例としては、エネルギー事業で得た収益を地域住民のために使うといった事業目的に対する共感、育児や趣味などエネルギー以外で意気投合する販売員の人柄への共感などがある。

 こうした「事業者に対する共感」の影響は強く、一度生まれた共感は生活者とつながり続けることで強固となり、顧客をファン化していくだけでなく、ソーシャルメディア(SNSなど)を通じて瞬く間に多くの生活者にシェアされ、自社の顧客基盤を拡大させることも可能とする。ただし、例えば、迷惑な営業行為(例:プライベートな時間に営業の電話をかけてくる、など)のようなネガティブな情報は、ポジティブな情報以上にソーシャルメディアを通じて瞬時に拡散するため、瞬く間に顧客を失う危険性を持ち合わせている点には十分な注意が必要である。

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