コラム
» 2005年01月06日 02時47分 UPDATE

誰がキラーコンテンツを殺しているのか?第5回 日本のアニメは米国でキラーコンテンツになれるのか?(前編)

これまで海外では、一部のマニアのものだった「ジャパニメーション」。この言葉は当初、「オタク」的なやや卑下した響きをもって語られることが多かったが、今や日本のアニメはクールでカッコイイと評価されている。日本のアニメはディズニーの牙城、米国においてもキラーコンテンツになれるのか?

[神山理恵,電通総研]

1ケタ違う日本と米国のアニメ制作費

 日本のアニメは、米国のアニメと比較して、制作費が極端に少ないことが、大きく異なる点である。というか、その違いこそが、両者のアニメビジネスの全ての違いのスタート地点となっているとさえ、言ってもよいだろう。

 ディズニーに代表される米国アニメ映画の制作費は、100億円を超えるものも珍しくはない。少なくとも1作当たり数十億円はかけている。100億円を超える作品を作るからには、マルチ展開で収益機会を確保しておく必要があり、最初から海外販売、キャラクタービジネス、ゲーム化などの話がすでについているケースがほとんどである。

 一方、日本の劇場版アニメの制作費は、概ね2〜3億円程度、多くて数億円という規模。「日本のディズニー」と言われるスタジオジブリの作品でも、せいぜい20〜30億円である。最近でこそ、制作当初から戦略的にマルチ展開を行なう作品が出てきているものの、そもそも制作費が数億円程度の作品の場合、マルチ展開する必要はないとも言える。

 最近増えている深夜アニメ番組にしても、放送枠を自社で買取った上で、DVDを10万枚も売れば、元が取れてしまう。それが日本のアニメビジネスなのだ。

「ディズニーモデル」vs.「バンダイモデル」

 ここで、「ディズニーのビジネスモデル」(以下、「ディズニーモデル」と呼ぶ)と、「日本のアニメビジネスの構造」(以下、「バンダイモデル」と呼ぶ)を比較するために、コンテンツビジネス・フロー図を作成し、両モデルの主要ビジネス領域を色分けして示してみたい。

 アニメビジネスは様々な異なるビジネスが複雑に関与しながら成り立っていることから、本フロー図では、大きく9つのビジネスに分けている。1〜9のビジネスの概要は下の表のようになる。

図中の番号名 称ビジネスの概要
1.コンテンツ化ビジネス漫画家などのクリエーターが創作した作品を、アニメ化するビジネス
2.広告・プロモーションビジネス(1)

(テレビアニメのみ)

広告代理店がプラットフォーム事業者からアニメの放送枠を購入、広告主に販売し、広告主は自社商品の広告宣伝を行なう
3.広告・プロモーションビジネス(2)

(アニメ映画のみ)

アニメ映画の宣伝を行なうビジネス
4.放映権ビジネス地上波、BS、CS、ブロードバンド、海外での放映権を販売するビジネス
5.イベントプロデュース・実施ビジネスアニメキャラクターを使ったイベント、プロモーションを請け負うビジネス
6.投資ビジネス製作委員会などのメンバーになり、アニメ制作費を出資し、配当を得るビジネス
7.ライセンスビジネス版権窓口になりマーチャンダイジング、パッケージ化、2次利用などから上がってくるライセンス使用料から収益を得るビジネス。また、それらのグッズ、パッケージ等を製造・販売するビジネス
8.興行・販売ビジネス劇場、レンタル店、書店、レコード店、一般小売など、生活者を対象に興行、グッズ、パッケージ等の販売を行なうビジネス
9.配給・流通ビジネス(アニメ映画のみ)興行主に作品を供給し、興行収入の中から配給手数料を得るビジネス

 ディズニーは自社ビジネスを大きく、Disney Studio Entertainment(映像プロダクション部門) 、Disney Parks and Resorts(テーマパーク部門)、 Disney Consumer Products(キャラクター商品部門)、 Disney Media Networks(メディア・ネットワーク部門)の4つに分けている。

 これらをフロー図に濃い青色で色付けすると、下のようになる。「1.コンテンツ化ビジネス」「4.放映権ビジネス」「7.ライセンスビジネス」「8.興行・販売ビジネス」を一手に自社で行なっているのがわかる。

ディズニーモデル 電通総研作成(クリックで拡大表示)

 アニメは当たり外れが大きいので、リスク・コントロールがビジネスの鍵を握る。「ディズニーモデル」は、多面展開で収益機会を多様化することにより、リスクを分散している。

 周辺ビジネスを薄い水色で色付けしてみると、制作に莫大な資金を投入できるのは、ポストプロダクションのほぼ全チャネルを自ら握っているからに他ならないことが、頷けるであろう。

 次に、広告枠を玩具メーカーなどが買い切り、番組と連動するかたちで、関連商品を販売し利益を上げる「バンダイモデル」を下にピンクで色付けして示した。深夜枠の大人やマニアをターゲットとしたアニメ番組も、玩具がDVDやCDに変わるだけで、ほとんど同じ構造である。

バンダイモデル 電通総研作成(クリックで拡大表示)

 「バンダイモデル」は長らく、日本のアニメビジネスの構造を決定付けてきた。このモデルについては「広告プロモーションビジネス」と「コンテンツ化ビジネス」が密接に連動していることがしばしば指摘されるが、もう一点、「アニメ制作者とライセンスビジネスを展開する企業が、別々に存在している」ことが特徴的である。

 そのため、リスク・コントロールの観点からは、制作における低コスト構造がリスクを吸収してきた。よって収益機会がそれほど多様化しなくても、狙ったターゲットに確実に作品がヒットしさえすれば、おのずと採算が取れるビジネス規模に収まる。

 すなわちアニメ制作費として還流する資金源としては、広告主が放送局を経由して提供する制作費と、ライセンス料収入に限定されているものの、それでも何とかビジネスが回ってしまうのだ。

ポケモンビジネスに見る「バンダイモデル」の可能性

 しかし「バンダイモデル」は、いったんキャラクタービジネスや海外販売の話が持ち上がれば、ビジネスが飛躍的に拡大する可能性を秘めている。「ディズニーモデル」と異なるのは、その可能性が予め制作費の中にビルトインされているのでなく、ヒットの感触をみながら段階的に、慎重に、進められ、各段階で投資価値が高まる構造になっている点である。その最たる成功例が「ポケモン」だった。

 下は、ポケモンがゲームとして発売され、段階を追ってマルチ展開され、世界的なキラーコンテンツに成長していくまでの経過を追った表である。

年 月 出 来 事
1996年 2月 任天堂ゲームボーイ用ソフト「ポケットモンスター赤・緑」発売
1996年10月 最初のカードゲームシリーズ「ポケットモンスターカードゲーム」が発売
1997年 4月 TVアニメが初めて放映
1998年 7月 劇場版第一弾、「ミュウツーの逆襲」「ピカチュウのなつやすみ」が公開
1999年11月 映画「ミュウツーの逆襲」全米公開・全米新記録のヒット

 ポケモンは、ゲーム発売当初からこのようなヒットが期待されていたわけではなかった。それどころか、劇場版アニメが日本で公開されている時点でさえ、映画の海外展開の話はまだ決まっていなかったと言う。これらの経緯は『ポケモンストーリー』(日経BP社)に詳しいが、ヒットの感触を少しずつ手繰りながら、ビジネスを段階的に拡げていくという戦略がとられていったのである。

日本のアニメビジネスは「小さく産んで大きく育てる」

 ここまで見てきたように、日本のアニメと米国のアニメとでは、そもそもビジネス構造が異なる。初期投資となる制作費が極端に少ないからといって、日本のアニメが米国のアニメに劣るかというと、全くそのようなことはなく、単なるビジネス戦略の違いであることは、今や3兆円規模に成長したポケモンビジネスの証明するところである。

 膨大な制作費を注ぎ込むだけが、キラーコンテンツ育成の条件ではない。日本アニメには日本アニメのキラーコンテンツの戦略があってよいはずである。昨今の、制作当初からマルチ展開を狙った新しいアニメ制作の動きに反対する意図は全くない。しかし「小さく産んで、大きく育てる」という、従来型の日本アニメビジネスの手法も、もっと評価されて良いのではないだろうか。

 次回は、今回と同じテーマで「リアルオプション」の概念を使って、日米のアニメビジネスの構造比較をし、日本のアニメのキラーコンテンツのあり方を考えてみたい。

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