AIポータルメディアを運営するアイスマイリー(東京都渋谷区)は8月28日、AI製品に関する合同記者発表会を開催した。発表会では、東京大学でAIを研究している松尾・岩澤研究室発のAIスタートアップ・エム二(東京都文京区)などが登壇。顧客である製造業界の生成AIトレンドを紹介した。
【訂正履歴:2024年8月29日午後8時 記事掲載当初「松尾研究所発」と記載していましたが、正しくは「松尾・岩澤研究室発」でした。お詫びして訂正します】
エム二では、製造業界向けに生成AIの導入支援事業を手掛けている。代表取締役を務める下野祐太さんによると、製造業界では2002〜2021年の20年間で就業者数が約157万人減少。就業者数の減少と高齢化が主な要因で、高齢就業者数の割合は4.0%上昇し、一人一人の生産性向上が求められている状況という。
そんな中、製造業界の最新トレンドとして挙げているのが、工場などの現場での生成AIの活用だ。これまでの製造業界での生成AIトレンドは、その勉強会やバックオフィスへの導入が主だったが、現場への生成AI導入の要望が増えているという。
現場への生成AI導入で求められるのがオンプレミス環境でのAI活用だ。製造業では設計書の流出などが致命的なリスクになるため、セキュリティの観点からオンプレ環境での生成AIの運用が求められるという。
また、RAGが製造業×生成AIにおけるホットワードだと下野さんは語る。RAGとは、特定のデータベースをAIに参照させ、データの出力を試みる手法のこと。オンプレ環境でRAGを使ったAIプロダクトを開発することで、セキュリティリスクを抑えた工場内完結の生成AIを利用できる。
一方、このような現状に対して、下野さんは「将来的にはオンプレ開発ではRAGよりもファインチューニング(AIモデルに追加学習をし、特定分野に特化した作業の精度を高める手法)や長文プロンプトを利用した利用方法が活発になるのでは」と予想している。
「(AIの出力の精度を上げるには)RAGとファインチューニングの合わせるのが一番効果的だと、当社の検証で判明している。一方、クラウドでAPIを使う場合、ファインチューニングの利用料は高額になるが、オンプレではそこがあまりかさばらない。そのため、オンプレ開発とファインチューニングは相性がいいと考えている」(下野さん)
また、生成AIの出力精度について、RAGと長文プロンプトを比較すると、長文プロンプトのほうが高精度になる傾向が見られたという。しかしAPIのコスト面を見ると、長文プロンプトの方がRAGよりも高額になる傾向がある。
これに対して下野さんは「オンプレ開発の場合、基本的にコストは入力量に依存しない」とオンプレ利用のメリットを説明。これらの要因から、今後オンプレ開発での生成AI活用では、ファインチューニングや長文プロンプトの利用が活発になるのはと予想している。
このような将来を見据え、エムニでは熟練工の暗黙知の言語化するチャットbotの開発を進めている。このチャットbotは、熟練工にインタビューした内容をAIに入力し、熟練工の持つ知識を言語化。データベースとしてまとめることで、若手技術者からの質問に答えられるようにし、技能伝承をサポートする狙いがある。
この他にも、トラブル発生時の原因特定をサポートするチャットbotや、特許調査業務の効率化を目指すAIプロダクトなども開発中。オンプレ環境で利用できる生成AIを活用し、製造業界の業務効率化を目指していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.