今度はChaChatGPTの開発会社が新製品の発表イベントを開催します。米国と時差があるので深夜になりますが、リアルタイムで驚きます。
「全人類必見!ChaChatGPTの新バージョンが公開!」「知らない人はリストラ決定!今すぐ〇〇を使いこなせ!」
もちろん全人類に影響することはなく、リストラされることもありません。しかし、驚かなければ人々は注目してくれません。そこで発表内容を“演出”しただけです。青年のSNSフォロワー数が、1万人から10万人に増えました。
そして青年は起業して、ChaChatGPT・生成AIのスタートアップの会社を設立します。さらに「日本をAIで元気にしたい」など、聞こえの良いキャッチフレーズで驚きます。事業として社会人向けスクールを立ち上げて、AI専門家(自称)である社長が制作した教材と、AIのプロによる受講者への個別指導を強みとしました。
しかしChaChatGPTや生成AIを(多少)使いこなせる人が増えても、日本が元気になる根拠にはなりません。とはいえ、社会の変化に取り残されたくないと考えるSNSのフォロワー達が受講してくれました。会社の売上が増えて受講者の貯金は減りましたが、社会や経済への影響は特にありません。
こんなに素晴らしい(ように見える)存在を、メディアは放っておきません。今度はテレビに「最新のAIに詳しいインフルエンサー」として出演しました。華々しく最新AIを紹介しながら「まさにSF映画が現実に!」「これはCGではありません!」と驚きます。もっとも紹介した内容は米国や中国のIT企業が制作したコンセプトムービーなので、まだ現実ではないのですが。
こうして知名度が向上して、起業した会社は急成長します。ChaChatGPT講座の受講者が殺到して、社員を増やして組織は急拡大しました。さらに青年は会社経営のみならず「日本一のAI専門家」として、メディア出演や講演で大忙しです。
YouTubeチャンネルを開設してAIのみならずビジネスや起業論を語り、自宅である港区のタワマンから高級ワインとスポーツカーを紹介しています。そして日本一のAI専門家(自称)として、政府から有識者会議に招かれて、名声も手に入れました。青年のSNSフォロワー数が、10万人から100万人に増えました。
かつてはSNSでまったく相手にされなかった青年が、ChaChatGPTと生成AIに驚くだけで、これほどまでの成功を手に入れました。まさに現代の夢物語です。
青年は大きな目標を掲げて驚きます。「202X年に自分の会社を株式上場する」と発表しました。しかし、人々は気付き始めています。ChaChatGPTや生成AIが進化しても、仕事は楽になりません。残業時間は減らず、給料やボーナスは増えません。さらにChaChatGPTや生成AIの進化も停滞しており、青年のSNSを見て驚くことも無くなりました。
ここで青年は失態を演じます。過去にSNSで紹介した画像や動画は、全て他人が作ったものでした。それらの著作物を自分のSNSで無断転載しており、法的措置と利用料の請求が大量に寄せられます。
また、過去に販売した美少女イラスト生成AIによる情報商材は「確実にもうかる」「売上100万円を達成」などの過剰な宣伝文句を使っていたことで、行政指導が入りました。原因は購入者によるクレームを無視した結果、消費者庁に報告されたためです。
さらに起業したChaChatGPT・生成AIスクール事業でも、問題が発覚しました。講座の内容はネットで集めた情報をそのまま紹介する動画だけで、社長が制作した教材は他の講座や書籍の内容に酷似していました。
AIのプロによる個別指導も、指導者がAI未経験者ばかりなので役に立ちません。これらの問題は不満を持った受講者が、暴露系炎上インフルエンサーに密告して発覚しました。結果として、弁護士を交えた集団訴訟に発展します。
とうとう従業員からの内部告発も発生しました。長時間残業と残業代の未払いで、社員が労働基準監督署に通報したためです。さらに過度なノルマによって強引な契約を迫る営業手法が、元従業員を名乗る匿名の動画投稿者によって暴露されます。また、従業員を正社員として雇用せず業務委託にして社会保険料を節約するだけでなく、結果が出ない従業員をすぐに解雇していました。
急成長に目をつけて、国税局も動いていました。架空経費の水増しによる脱税が発覚して、追徴課税を請求されます。放漫経営と社長の浪費によって現金が残っておらず、払えなければ倒産の危機です。
こうして不祥事が重なって青年の会社は悪評が広まり、業績が急速に悪化しました。一方、彼を「日本一のAI専門家」「社会を変える起業家」と持ち上げたメディアは、無言を貫きます。こうして「ChaChatGPTがヤバすぎる!」「生成AIで革命が起きる!」と驚き続けた青年は、1日だけSNSのトレンドで名前を残したのを最後に人々の記憶から消え去りました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.