生成AIが生活の中に浸透し、さまざまなメディアがその関連技術やサービスを取り上げることも増えてきた。そんな時代の流れの中で、SNSで活動する一部のユーザーのことを「プロ驚き屋」「AI驚き屋」と呼ぶ風潮がある。
プロ驚き屋、驚き屋とは、最先端テクノロジーに対して、SNSなどで誇張表現を使ってその存在をアピールする人たちを指す。「やばすぎる」「神」「最強」などの極端な表現を使い、生成AI技術を紹介する投稿を見かけたことがある人もいるのではないだろうか。
そんなプロ驚き屋たちの存在によって、思わぬトラブルに巻き込まれる場合があると、AIコンサルタントのマスクド・アナライズさんは警鐘を鳴らしている。一体どのような問題に巻き込まれる可能性があるのか。今回は“AI童話”と題して、トラブル事例をおとぎ話風に紹介する。童話のタイトルは「驚き青年」だ。
以下、マスクド・アナライズさんが執筆した文章。
プロフィール
ITスタートアップ社員として、AIやデータサイエンスについてSNSによる情報発信で注目を集める。同社退職後は独立し、企業におけるChatGPT及び生成AIの導入活用やDX(デジタル・トランスフォーメーション)を支援している。企業研修において、JR西日本、シーメンスヘルスケア、日立製作所などの実績がある。イベント登壇はソフトバンク、特許庁、マクニカ、HEROZを含め多数。東京大学と武蔵野大学にて、特別講義を実施している。著書に「データ分析の大学」「AI・データ分析プロジェクトのすべて」「これからのデータサイエンスビジネス」がある。10月23日には最新書籍「会社で使えるChatGPT」を発売予定。
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4492047794
X(旧:Twitter):@maskedanl
「狼少年」という童話をご存じでしょうか。羊飼いの少年が「狼が出た!」と繰り返しウソをついて村人の注目を集めた末、本当に狼が出ても誰にも信用されず食べられてしまう童話です。
数百年前の童話ですが、本質は現代にも通じます。なぜなら現代社会においてAIの新しい情報が発表されるたびに、大げさに驚いて注目を集める青年がいるからです。今回はそんな「驚き青年」の物語です。
ある青年は、SNSで有名人になろうとしていました。米国の大手IT企業が話題になれば「シリコンバレー流の仕事術!」と驚き、デジタルガジェットを見つけたら「クラウドファンディングで絶対欲しい!」と驚き、仮想通貨が流行すれば「値上がり確実な仮想通貨10選」と驚き、NFTやブロックチェーンなら「ゲームを遊んでお金がもらえる!」と驚いていました。
しかし、青年がいくら驚いても、世間は誰も注目しません。そんなとき、生成AI技術が登場し、チャットAI「ChaChatGPT」に注目が集まりました。青年は早速驚きます。
「ChaChatGPTがヤバすぎる!」「生成AIで革命が起きる!」
青年は英語が得意だったので、他の日本人より早く海外の情報を入手できました。もっとも、SNSで見つけた英語の情報を、大げさな日本語に翻訳して自分のアカウントで投稿するだけです。しかし多くの人はそんなことを気にしません。
「ChaChatGPTはヤバいらしい!」「生成AIで世界に革命が起きるのか!?」と、SNSで話題になりました。青年のSNSフォロワー数が、100人から1000人に増えました。さらに世界中にいるChaChatGPTの利用者が、便利な使い方を紹介しています。続けて青年は驚きます。
「ChaChatGPTで〇〇ができる! もう〇〇は不要!」「1日の仕事が3分で終わるプロンプトを公開!」
同じようにSNS上にある他人の情報をコピペして、自分のアカウントで公開するだけです。自分で考えたり、試したりした内容は一切ありません。さらに、生成AIを使ったオモシロ画像やインパクトのある動画を紹介して、注目を集めます。青年のSNSフォロワー数が、1000人から1万人に増えました。
ChaChatGPTや生成AIはさらに進化します。まるで人間が描いたようなイラストを生成できるようになりました。そこで世間の副業ブームに乗って、こんな商品を販売します。
「美少女イラスト生成AIで副業!売上100万円も当たり前!」
「情報商材」と呼ばれる有料の記事を、5万円で販売します。定価は9万9800円ですが、先着10人までの特別価格なので、すぐに購入しないと値上がりする仕組みです。彼のフォロワー達は、こぞって買い求めました。なぜならフォロワー達は彼がAIに詳しいと思い込んでおり、無条件に信頼しているからです。
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