「ここは人間も失敗するしAIでもいいのでは」――生成AIの業務導入で外せない“幻覚”との付き合い方(2/3 ページ)
具体化する活用事例:保険金支払い査定業務の効率化
金融インフラの提供を通じて組み込み型金融の実現を目指すFinatext(東京都千代田区)は、生成AIの事業導入に積極的な一社だ。同社は保険金支払い査定業務に生成AIを導入し、業務効率の大幅な向上を目指している。
保険業務と生成AIの相性の良さについて、Finatextの保険事業に携わるリードエンジニア、山崎蓮馬氏は次のように説明する。「保険というのは、契約書や約款に書かれている内容に基づいて金銭をやりとりする業務。厳密なプログラムで可否を決定するというよりも、文書の解釈が重要であり、実はかなりアナログな側面がある。この特性が、自然言語を理解し生成する能力に長けた生成AIと非常に相性が良かった」
保険金が請求されると、担当者は約款や特約の内容を確認してどの条件に該当するかを判断し、支払いの可否や金額を決め、最終的には支払査定文書を作成する。基本となる情報は、あらかじめ登録されていたりユーザーが登録したりしたものを利用するが、それを約款に基づいて判断する部分は人が行う作業だ。
「査定業務ナレッジは蓄積・共有が難しく、専門的な書類や画像の取り扱いにも課題があった。さらに事業規模の拡大に伴い、査定数が増加して人的リソースを圧迫していた」。そう話すのは、このシステムを考案し開発を進めているデータサイエンティスト/データエンジニアの高橋祐太氏だ。
この約款の複雑さに対し、生成AIは効果を発揮する。「保険の約款は数百ページにもわたることがあり、どういう内容が書かれているのかを把握するだけでも一苦労。これまでは精通した人の職人芸的なスキルに頼る部分も大きかったが、生成AIなら瞬時に全文を読み取り、必要な情報を抽出できる」(山崎氏)
このような背景のもと、Finatextは3つの技術を駆使したソリューションを開発した。RAG(Retrieval Augmented Generation)、マルチモーダル、そして自動文書作成技術だ。RAGは、独自のナレッジや情報を生成AIに連携して回答精度を向上させる技術。マルチモーダルは、テキストや画像など複数種類のデータをまとめて扱う技術だ。これらを組み合わせることで、保険金支払い査定に必要な多様な情報を効率的に処理できるようになった。
まず、Inspire(同社の保険クラウドシステム)上の商品情報や基本保険約款などのドキュメントをあらかじめRAGを使って蓄積する。次に、査定に必要な聴取項目の入力、アップロードされた書類画像などの保険金請求情報はClaude3.5のマルチモーダル機能を用いて解釈する。最後に、これらの情報を元に、プロンプトを実行して支払査定文書を作成する。別途専用のAI-OCRなどを使ったほうが認識性能は向上する可能性は高いが、1つのモデルで処理が簡潔するシンプルさとスピードのほうが重要だと判断した。
モデルはAWS上の生成AI実行基盤であるAmazon Bedrockで動かしているが、今後より優れたモデルが登場すれば、モデルだけを簡単に切り替えることができるのも利点だ。
この仕組みにより、支払査定文書作成の大幅な効率化が可能になるという。高橋氏は「生成AIで支払査定文書が作成できると、品質を維持しつつ査定業務時間を3分の1まで短縮できる可能性がある」と話す。
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