PixelのGemini体験だが、いつでもどこでも電源ボタンを長押しすればチャットAIにアクセスできるのは結構便利に感じた。これは、Android OSを作るGoogleならではの“特等席”でもあり、「ふとした疑問はGeiminiに聞く」をユーザーに浸透させやすくする大事なUIでもある。
その一方で、Geminiの「煮詰まってなさ」も強く感じた。先述の日本語対応もそうだが、特にAIアシスタントとして連携不足な部分が多い。例えば、Geminiに「近くのコンビニを教えて」と聞いても、頓珍漢な答えが返ってくる。現在地を取得できないのだ。東京都千代田区で同じ質問をしたら杉並区のコンビニを、埼玉県深谷市で質問したら京都のコンビニを回答してきた。
埼玉県深谷市に滞在中、Geminiに「近くのコンビニ教えて」と聞いても京都のコンビニを回答してきた。GeminiがGoogleマップを呼び出して回答させているのが確認できるが、そのGoogleマップが現在地を取得できていないのもおかしな話だGoogle以外のアプリにアクセスすることもできない。Googleアシスタントなら、事前に連携することで「OK, Google Spotifyで宇多田ヒカルを再生して」と声で操作できたが、Geminiだとアクセスできないどころか「代わりにYouTube Musicを使用します」と言い出す始末。他社アプリの呼び出しは「Googleアシスタントを召喚」でも塞がれており、アシスタント側で事前に連携していても無効だ。絶妙にかゆいところに手が届かない。
少し高度な要求だが、複数のGoogleアプリをまたいだ指示にも対応しない。もし、翌日に飛行機に乗る用事があったとする(チケットの購入完了メールは受領済み)。そこでGeminiに「明日の福岡行きのフライトに間に合うには何時に家を出れば良い?」という、GmailとGoogleマップの2つのアプリをまたぐオーダーを訪ねても答えてくれないのだ。まずGmailに届いている予約確認メールからフライト時刻を訪ね、それに間に合う交通機関を別途Googleマップで確認する必要がある。
なぜこういう聞き方をしたのかといえば、Appleの「Apple Intelligence」では実現するとされているからだ。オンデバイスAIが、iPhoneに蓄積されたメッセージ、メール、写真などのデータをローカルで分析し、ユーザーのパーソナルを把握するという。もし、iMessage上で友達からパブに誘われたとして「Hey Siri ! そのパブって家からどのぐらいかかるの?」と聞けば、Apple Intelligenceは文脈から「そのパブ」が今友達とやり取りしていたパブであること、「家」が自宅であることを察してルートを案内。複数のサービスをまたいで欲しい情報を届けるという。
こうしたユーザー体験にフォーカスした見せ方はAppleの得意分野だが、日本展開は来年までおあずけなので、本当にうたい文句通りかは分からない。ただ、生成AIパワーを使ってスマートフォンがどう便利になるかの、ひとつの答えでもある。GeminiをはじめとしたGoogleの生成AI機能は、個別のユースケースで便利になるものが多く、点で散らばっている印象だ。言い方を変えれば「できるところからやっている」わけだが、いざApple Intelligenceが本格展開した際にどう差別化するのか、Googleのビジョンは複数の点からうまく線が引けていない印象だ。
Pixelの差別化ポイントもいまいちだ。せっかくオンデバイスAIに長けた独自チップを搭載していても、肝心のGeminiはクラウドで動作している。そもそもGeminiは一般的なAndroidアプリとして提供されており、Pixel以外のスマートフォンでも無料でGeminiを体験できるのだ。もちろん「電源ボタン長押しで起動」もサポートする。プッシュしたいAI体験がアプリに寄っているということは、Pixelを選ぶ必然性は薄くなるし、ChatGPTなど他のチャットAIに乗り換えやすいことも意味する。せっかくTPUを強化した自社チップを載せているのだから、クラウドとオンデバイスをシームレスに組み合わせた、PixelならではのAIスマホ体験を味わってみたい。
結構辛口になってしまったが、Geimini含め生成AIは伸びしろが大きい技術には変わりなく、今後もアップデートが続いていく分野でもある。本稿の印象は「現時点」のものと考えてもらえると幸いだ。そういう意味では、GeminiがAndroidの“特等席”を生かしてどう進化していくのか、Tensorチップを載せたPixelがオンデバイスAIパワーをどうユーザーに届けてくれるのか、「AIといえばGoogle」の復権が楽しみにだ。
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