この2つの役割は、セットで語られることも多いです。AIが人の作業を代行したり効率化したりすることによって、時間の余裕が生まれる。新たに生まれたその時間を使って、人はより創造的な作業ができるのです。これはつまり、効率化することで創造性が高まるという解釈ですが、AIによる貢献はそれだけではなく、もっと積極的な見方ができます
効率性と創造性を巡るAIの議論の前提となっているのは「人間の創造性は、多くの考える時間や試行錯誤を必要とする」という考え方です。AIができることは、そのための時間を作ることであるとつながりますが、実際はAIとのインタラクションが直接的に創造性を高めてくれることもあります。
例えば、前述したHondaの事例では、体験型の企画だけでなく、オンラインで夢の車のアイデアを募集し、生成AIが設計図として生成しました。Hondaの開発者やデザイナーは生成された約3万個の夢の車の設計図からインスピレーションを得て、そこに彼ら自身の創造性を掛け合わせて、未来のモビリティビジョンを生み出しました。
これは最終的に、1つのプロジェクトの形として、未来のモビリティビジョンとして16個のアイデアをまとめ、公開しています。
AIは、私たちに新たな視点やアイデアを提供し、創造活動を支援できます。例えば、AIによる画像生成や文章作成は、今までにない表現方法を生み出すきっかけとなります。また、AIは膨大なデータから私たちでは気付かないようなパターンや関連性を発見し、これまでにない発想やイノベーションを生み出すヒントも与えてくれるでしょう。
また、人が使う道具や技術の進化に伴い、人の創造性も一緒に進化していくいう考え方もあります。AIに幅広いアイデアを出してもらった上で、人間がそれらを超えるアイデアを編み出す。あるいはAIのアイデアと人のアイデアを1つに集めて、より広い視野から全体を見渡したクリエイティブな思考や判断ができるようになるということもあります。
AIが生み出す「ハルシネーション」も、私たちのクリエイティビティを高めるものとなりえます。ハルシネーションとは、AIが学習データに基づいて現実には存在しない情報や、事実とは反する回答を作成する現象のことですが、一見、エラーやノイズのように思えるハルシネーションも人間の想像力をかき立てる機会になります。
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