このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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筑波大学に所属する研究者らが発表した論文「Development of a Robotic Device That Performs Head Bunting to Relieve User Tension」は、猫が頭をすり寄せる動作(bunting)を模倣したロボットを開発し、そのいやし効果を検証した研究報告である。buntingとは、動物が他の物体や人間に頭部をこすりつける行動で、特に猫において愛情表現や臭い付けの目的で観察される。
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ロボットの特徴は、動物の頚椎構造にヒントを得た可変剛性機構にある。主に四つの骨部品をジョイントで接続した構造を持ち、部品間は複数のシリコンチューブとステンレス製のワイヤーで結合。ワイヤーは頚椎の屈曲をもたらすものと、屈曲における剛性の強弱をもたらすものに分かれ、それぞれが独立したサーボモーターによって制御できる。
研究チームは、22人の参加者を対象に実験を行い、ロボットの首部を低剛性設定(首の硬さが最小)、高剛性設定(首の硬さが最大)、可変剛性設定(首の硬さが動的に変化)の3種類の条件下で、それぞれ40秒間のbunting動作を実施した。
実験では、質問紙を用いて参加者の気分を測定した結果、ロボットとの相互作用後に参加者の緊張度合が有意に減少することを確認できた。減少の度合は可変剛性設定が最大であったが、条件間での有意差は認められなかった。
参加者からの自由記述では「剛性が変わると本物のように感じられ、最もリラックスできるように思えた」「強弱の違いが感じとれて、より生命感があり自然に思えた」といった、可変剛性設定の有効性を支持するコメントが寄せられた。これらの結果は、ロボットの剛性変化が人との自然な相互作用に重要な役割を果たすことを示唆している。
Source and Image Credits: Yuga Adachi and Fumihide Tanaka. 2024. Development of a Robotic Device that Performs Head Bunting to Relieve User Tension. J. Hum.-Robot Interact. 14, 2, Article 20(June 2025), 15 pages. https://doi.org/10.1145/3700600
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