このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英ノッティンガム大学に所属する研究者らが発表した論文「Designing Multispecies Worlds for Robots, Cats, and Humans」は、AIが猫を幸せにできるのかを確かめるため、「クローバー」「パンプキン」「ゴーストバスター」という名前の3匹の猫が、12日間にわたって1日6時間、自律ロボットと過ごした実験の様子を報告した研究である。
近年、ロボット掃除機の上で楽しそうに乗っている猫の動画がソーシャルメディアで話題になるなど、猫たちは動き回るロボットにも動じることなく、むしろその存在を楽しんでいるようにさえ見える。ロボット掃除機や芝刈り機など、ロボットによる支援が身近になりつつある中、研究チームはロボットが猫の飼育環境の質的向上に役立つ可能性について探った。
研究チームは「Cat Royale」と名付けられた、猫とAIロボットがインタラクションする特別な室内環境を設計。この空間には、おもちゃやキャットツリー、水飲み場、植物がふんだんに用意され、中央にはロボットアームを配置した。
ロボットアームは、猫じゃらし風のおもちゃやボールで獲物を追わせるゲームや玉転がしなど、500以上の遊びを提供し、おやつも与える。さらに、ロボットが特定の遊びを行った後、その遊びが各猫の幸福度にどのような影響を与えたかを計測し、その結果をAIシステムにフィードバック。どの遊びがどの猫に好まれるかを学習、それに基づいて次の遊びを提案するという仕組みを取り入れている。
猫の様子はカメラとコンピュータビジョンで観察し、AIは猫たちを幸せにすることを目指した。
ロボットアームは自律システムとして設計されているが、猫たちの安全と健康を確保するため、人間が常に関与し、リアルタイムの観察に基づいてロボットの活動を調整した。猫たちのリアクションは、「完全にリラックス」を1、「恐怖」を7とする尺度によってストレスレベルを評価した。
実験の結果、3匹の猫はこの空間にいる間、高いストレスを示すことなく、自ら進んで入室し、ロボットが提供する遊びやおもちゃに自発的に反応した。猫の行動専門家と飼い主も、猫たちの体の動きから、猫たちがこのプロジェクトに心地よさを感じていたと分析している。
Source and Image Credits: Schneiders, Eike, et al. “Designing Multispecies Worlds for Robots, Cats, and Humans.” arXiv preprint arXiv:2402.15431(2024).
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