クリエイティブにAIを込めて
マーケターよ、生成AIを乗りこなせ とんでもない“高速PDCA”がもたらす成果と課題
博報堂DYホールディングスが、生成AIとクリエイティビティについて考える同連載。今回は「クリエイティブ業務におけるAI活用」と題し、博報堂テクノロジーズ執行役員、プロダクト開発センターセンター長の柴山大さんがマーケティングにおける広告クリエイティブへのAI活用や展望を紹介する。
近年、AIはマーケティングにおけるクリエイティブ業務に大きな変化をもたらしています。ChatGPT以前の生成AI活用は、主にテキスト生成、例えばリスティング広告文などの生成に焦点を当てられていました。
ChatGPTを始めとする生成AIの台頭により、広告コピーやバナーデザインなどの視覚的なクリエイティブ、プランニング段階での活用へと範囲が広がり、クリエイティブ制作における効率化と高度化が同時に実現しつつあります。
クリエイティブ領域だけではなく、マーケティングのプロセスにもAIの活用が進んでいます。新しい商品やサービスをどのような観点で生活者に訴えかければ効果的かを考えることがマーケティングの第一歩です。博報堂では、クリエイティブ業務の効率化と高度化を支援するプラットフォーム「CREATIVE BLOOM PLANNING」を開発し、サービス理解→ペルソナ・ジャーニー作成→訴求軸作成→コピー作成→構成案作成と進めています。
マーケティングプロセスにおけるAI活用
また競合調査にもAIを活用していて、直接競合だけではなく間接競合についてもAIによってリストアップできます。今までは人間がGoogle検索などでリサーチするところから始めていたため、時間がかかっていました。AIを使うことで競合の洗い出しや新たな訴求軸の発見ができるようになり、プランニングに変化が起こっています。
プランニングの次の段階のデザイン制作にもAIの活用が広がってきています。ここでは2つの観点があります。「もっといい絵を描きたい」という高度化と、「もっと早く描きたい」という効率化です。効率化はコスト削減の話としてまとめられがちですが、私たちは違う捉え方をしています。
デジタル広告を例にして考えてみましょう。まず前提として、日常的に広告に接するメディアの種類がどんどん増えています。GoogleやYahoo!などの検索サービス、FacebookやInstagram、X(旧Twitter)、LINE、TikTok、BeRealなどのSNSやAmazon、楽天などのECまで生活者が接する新しい媒体が次から次へと出てきます。そのため1個の商品を訴求するために、それぞれのメディアに最適化されたクリエイティブを作り分けないといけません。
つまり今までと同じスピードで作っていたら届けられるメディアが減ってしまいますし、同じ効率で続けていたら制作費だけ上がってしまうため、広告主が成し遂げたい目標に届かなくなってしまいます。
さらにアドテクノロジーの進化に伴い、世代など属性に合わせてクリエイティブを作り分けることも必要です。メディアとターゲティングのマトリクスが複雑化しているため、作るべき広告クリエイティブの種類が急増しています。
このような状況に対応するためにはAIの力が必要不可欠です。これまでは0から人間がプランを考えて手を動かしていましたが、今はAIに背景を提案してもらったり、バナーの配置を考えてもらったりします。効率化の観点では、数年前とは作り方が劇的に変わってきています。
マーケティングには答えがない
マーケティングには正解がなく、常に変化への対応、競合との差別化が求められます。例えば、1個の商品で100の広告文を出し分けるとします。生活者の心に届くように、全ての広告文が効果を発揮できるように数字を見ながら入れ替えていきます。
効果の薄い50の広告文を入れ替える場合、今までは人間が数日間考えながらやってきましたが、AIに任せれば5分でできます。もちろん1回で完璧な結果が出てくるわけではありませんが、PDCAを回しやすくなっています。人間の場合には時間的制約があってできなかったことがAIによって高速でできるようになり、クリック数が150%に向上するなどの効果が出ています。
AIが効率化や高度化に貢献する一方、AIが生成するクリエイティブが画一的になるリスクや、創造性や独自性の欠如といった問題も考慮する必要があります。生成AIを技術的な観点でみると、統計モデルから成り立っています。ChatGPTに何か質問をすると、統計的に深い処理をして“正解に近いであろう”答えを作り出してくるわけです。
しかし、マーケティングには答えがありません。生成AIは統計をもとに王道の答えを作り出す装置なので、人間から見ると普通の答えを出してきやすいわけです。「軸をずらしてほしい。ひねりをきかせてほしい」と指示を出して別の答えを導き出すことは可能ですが、AIは無数の答えを持っているので、その中で自分たちの考える「これだ!」を当てに行くのを繰り返し指示出しするのはコスパの悪い作業になってしまいます。
AIは強力なツールですが、最終的な意思決定やクリエイティブな発想は人間が担うべきです。AIが出してきた王道やバリエーション案を見た上で、心をくすぐる訴求やコピーとは何かを最終的に人間が考えたり、選択してほしいと思っています。
もちろん、AIが過去から統計的に導き出したことが心を響かせるということもあります。それも一つの解ですが、みんながAIを使い始めると似たようなクリエイティブにたどり着きやすくなります。
それはマーケティングとして正解といえるでしょうか。みんなと同じ広告では意味がなく、マーケティングは「差」「違い」を作ることに意味があります。常に時代の変化や競合の状況、他が出している訴求方法などを、いい意味での違和感にどうやって変換するか。模倣された同じようなクリエイティブであふれる世界から抜け出さなければいけません。
AIを活用し、データに基づいた最適化を図りながらも、人間ならではの感性や洞察力を生かすことで、より効果的で魅力的なクリエイティブを生み出していくことが重要です。AIをツールとして使い、さらに共創していくことがこれからのマーケターには求められます。厳しい側面もありますが、マーケターが本来使うべき脳を動かすような仕事ができる幸せな時代だと捉えています。
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クリエイティブにAIを込めて
AIによって人間の能力を向上させていくことを目的とする研究機関「Human-Centered AI Institute」を設立した博報堂DYホールディングスが、生成AIとクリエイティビティについて考える。
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