博報堂DYホールディングスが、生成AIとクリエイティビティについて考える同連載。今回は「AIが変革するマーケティングの新しい顧客体験」と題し、博報堂DYホールディングスの統合マーケティングプラットフォーム推進室室長、兼「Human-Centered AI」のグループ横断プロジェクト「Creative technology lab beat」リーダーの木下陽介さんがマーケティング×AIの活用事例を紹介する。
広告クリエイティブを取り巻く環境は日々大きく変化しており、中でも顕著なのは、テレビCMなどのマスコミュニケーションとデジタルマーケティングの統合による相乗効果への期待です。
例えば、テレビCM放映後に視聴者が商品を検索し、検索結果ページのデジタル広告をクリックして購入に至る、といったように、オンラインとオフラインが連動したコンバージョンが求められています。また、GoogleやYahoo!などのプラットフォーマーが個別に持っている独自データを活用して、マーケティングの効果をより高めていくことも必要です。
こうした統合マーケティングへの需要の高まりを受け、博報堂DYグループはデータサイエンティストやデータエンジニアの社内採用に取り組み始めました。それによって、自社とプラットフォーマーのデータを組み合わせ、顧客のビジネス課題を解決するプラットフォームの開発を目指しています。
今回はその成果の一つとして開発した、生成AIとマーケティングを掛け合わせたプロダクトをいくつか紹介します。
博報堂DYグループでは、生成AIをマーケティング業務に活用する方法を模索しています。その一つして統合マーケティングサービス「CREATIVITY ENGINE BLOOM」を開発し、社内で展開しています。
このサービスでは、AIを活用し、マーケティングやクリエイティブ、メディア、流通など、それぞれの領域で個別に扱われていたデータやツールを掛け合わせ、効率化と高度化を実現して統合マーケティング戦略立案やビジネス開発支援、社会課題解決のアクションを生み出すことを目指しています。
CREATIVITY ENGINE BLOOMの事例を1つ紹介します。11月にローンチした「STRATEGY BLOOM CONCEPT」は、マーケティングのコンセプト開発を支援するプロダクトです。AIが壁打ち相手となり、アイデアの拡散や整理を支援することで、博報堂DYグループ社員の創造性を刺激し、より質の高いコンセプト開発を実現します。
具体的には、TBWA HAKUHODO の細田高広CCO(Chief Creative Officer)が持つノウハウをAIに学習させました。これにより、細田COOのプラニングノウハウを他の社員が活用できるようにし、社員全体のプラニングスキルの向上を目指しています。
コンセプトを明確に言語化するためのコンセプトワークには通常、1案に1〜2時間ほどかけていますが、AIを使うと5〜10分で開発することが可能です。ポイントは生成AIが出してきたものをそのまま採用せず、人間のインスピレーションや視点を入れて修正できるプロセスに設計したことです。そうすることで、人間とAIが共創しコンセプトを生み出す仕組みになっています。
もう一つ、AIによる人間の能力拡張の一例として「AIラッパープロジェクト」があります。ChatGPTに30万曲の歌詞のデータベースを読み込ませて、ラッパーに曲調やトラックに合わせた韻の踏み方や言葉選びを監修してもらい、ラップを自動生成する技術です。また、ラップに音声合成技術を組み合わせて、人間がラップを歌っている音声の自動生成もできます。
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