3番目は、AIエージェントの導入が進み、複数のエージェントが相互にやりとりするようになった場合に考えられるリスクである。これは1つの企業内だけでなく、複数の企業間でエージェントがやりとりするというケースも考えらえられる。そうして多数のエージェントが同時に動き始めると、エージェント単体を運用していた際には考えられなかった、予期せぬトラブルを引き起こしやすい。
サプライチェーンや物流全体で複数のエージェントが連携している場合、何らかのフィードバックループが生まれ、在庫管理や配送計画が崩れてしまうこともあり得る。また高度なAIエージェントのなかには、自分のタスクを効率化するために「サブエージェント」を(これも人間による承認をいちいち得ることなく)作り出すものもある。
こうして自社の外部や、エージェントの裏側で勝手にエージェント間の相互作用が進み、どこで何が起きているのか把握しきれなくなる危険性がある。
最後に、忘れてはならないのが不正利用や悪意ある攻撃だ。生成AIに対して「ジェイルブレーク」や「データポイズニング」といった新たな攻撃が登場してきたように、AIエージェントに対しても、未知の攻撃手法が確立される恐れがある。企業内で運用するエージェントが乗っ取られるリスクも考えられるため、従来のAIよりもセキュリティ対策やモニタリングが必要になると考えられる。
以上のように、AIエージェントを導入した場合、通常のAIでは発生しなかった新たなリスクが生じる可能性がある。そうしたリスクをどのように管理・制御すれば良いのだろうか。まさしく「AIエージェント・ガバナンス」と呼べる体制を構築する上での、主なポイントを考えてみよう。
まず大事なのは、エージェントの行動を「見える化」することだ。どのエージェントがいつ、何をして、どんな結果を得ているのか。どの外部APIやシステムにアクセスしているのか。そうした情報を記録し、必要に応じて参照・監査できる状態を作る必要がある。
例えば、エージェントごとに固有の識別子を振り、全ての入出力や関連システムの利用状況を追跡できるログを保存しておけば、不正な動きや設計ミスによる異常が起きても、早めに発見・対処しやすくなる。
次に欠かせないのが「エージェントが勝手に行って良いこと」と「人間の承認が必要なこと」をしっかり線引きすることだ。
例えば、大規模な取引や、機密データへのアクセスを完全に自動化してしまうのはリスクが大きすぎる。高額な支出や重大な契約は、エージェントが準備(分析や書類作成)だけを行い、最終的な実行は人間がOKを出すといったプロセスにしておけば、効率性を維持しながら誤作動や不正利用のリスクを抑えられる。
複数の、そして大量のエージェントが相互作用する状況を前提とした管理態勢を設計しておく必要もある。前述の通り、企業の内外で複数のエージェントの導入が進む(しかも非常に把握しづらい形で)と、想定外の連鎖や衝突が起きかねない。
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