本題に移ると「生成AIの進化で社会が変わる」「生成AIのスキルは必要不可欠」「生成AIを習得しなければリストラや失業は避けられない」と、何度も繰り返します。次に「まだ間に合うので早く学べば有利」「生成AIの市場規模は◯年後に10倍になる」という、今すぐやるべき理由を展開します。
また、過去にセミナーを受講した人たちの実績として「Aさんは生成AIで〇〇のスキルを習得」「Bさんは月に〇〇万円の収入」などの事例を紹介します。「自社が提供するノウハウがあれば誰でも実現可能」と解説しながら「今すぐ〇〇せよ」「生成AI人材の特徴は〇〇」という精神論に移ります。他社との優位性として「日本で最も実績のある生成AI講座」「日本一の生成AI専門家」を強調しながら「自社の講座とコミュニティーに入会するメリット」を挙げます。
最後に料金の説明と入会手続きという流れでした。セミナー終了後にその場で入会した人も多く「〇〇コースで〇〇名様に入会いただきました」「本日の入会枠はあと〇〇名です」と案内があります。さらに本日限定の入会特典が紹介されて、申込が打ち切られて終了となりました。ここまでの開催時間は、約2〜3時間程度となります。
こうした生成AIセミナーですが、初心者なら内容について納得するでしょう。一方で経験者の視点で詳細を掘り下げると、気になる点も数多くありました。それではセミナーの内容について、解説します。
大前提として、生成AIで初心者が短期間かつ簡単に副業で月に数十万円も稼げません。例えばクラウドソーシングで初心者でも可能な生成AIの副業案件はありますが、報酬は数百〜数千円です。数をこなせば月額で数千〜数万円の収入は得られます。しかし依頼主からの修正指示などを考慮すると時間もかかり、アルバイトの最低時給を下回る場合もあります。
企業から直接仕事を請ければ単価は高くなりますが、そもそも最近まで未経験者で実績もない一般人に仕事を依頼しません。何らかの取引実績が必要ですし、信用の面から個人より会社間の取引を優先します。
さらに初心者でも短期間の研修で生成AIスキルが身につくなら、自社の従業員に習得させる方が効率的です。実績の無い外注先に依頼して品質や納期のリスクや管理の手間を負担するより、自前で制作した方が効率的です。そもそも生成AIが「今まで出来なかったことができる」を実現するツールなので、そのために企業は自社の社員向けに生成AI研修を行っています。副業で仕事を請けるには、これらの条件を上回る理由が必要です。
セミナーでは生成AIで稼ぐ人の事例が紹介されましたが、理由は本人が優秀なのか、講座のカリキュラムのおかげか、運が良かったのか分かりません。さらに実績において、実在人物が収益を得た点に対する根拠や説明がありません。収入を証明する証拠が提示できなければ、事実かどうか怪しいです。
極論ですが「◯◯万円稼いだ」と自称する事も可能です。もしもセミナーの説明より稼げないことを主催者に申し出ても「努力が足りない」「十分に支援している」などと反論されればそれまでです。入会後に返金を求めても、クーリングオフの期間(無条件に返金されるのは8日間)を過ぎれば難しくなります。
さらに主催者がセミナーで全額返金を保証しても、入会後には細かい契約を理由にして拒否することも可能です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.