「〇〇万人が生成AIでリストラされる」「仕事の9割は◯年後に無くなる」「今が生成AIを学ぶ最後のチャンス」など、大げさな表現で不安を煽ります。そもそも将来は予測できないため、誰でも不安を抱く心理を利用しています。
さらに「小学生でも生成AIを使いこなす」「未経験の主婦やお年寄りも副業で稼ぐ」などの表現なら、受講者の劣等感を刺激しますし、あるいは「実は生成AIに向いているのは文系人材」「実は中高年こそ生成AIを使いこなせる」という表現なら、不安と貯金を併せ持つ受講者を入会に誘導できます。
さらに「日本一の生成AI専門家」「日本最高の生成AI講座」などと自称すれば、説得力が出せます。受講者が初心者ばかりなら、何を言っても正しいと思い込むでしょう。
「生成AIの副業で〇〇万円の収入」「生成AIスタートアップを起業して年商〇〇億円」などの数字が並びます。しかし、確定申告や決算書を見せてくれません。「セミナーの累計受講人数が〇〇名突破」が事実なら、生成AIを使いこなす人が数多くいます。しかし、現実にはまだまだ少ないです。累計の受講人数が〇〇万人いても、参加レポートなどは見当たりません。
セミナーの受講人数においても「今日は300人が参加しています」と主張するのは簡単です。なぜなら受講人数は主催者しか分かりません。オンライン会議ツールのチャットやリアクションは、主催者が用意したスタッフで盛り上げれば済む話です。
また、組織の人数に言及したら、数字を確認しましょう。「入会後は100人のスタッフが支援します」と主張しても、実際の社員数は5人かもしれません。仮に100人のスタッフがいても、残りの95人がアルバイトでは心配です。実際に組織体制と人数の実態が乖離する会社が存在しました。数字は説得力がありますが、事実であるかは別問題です。
生成AIセミナーで紹介されるカリキュラムの費用はさまざまです。月額で数千〜数万円、一括支払いで数十万円、中には100万円以上の講座もあります。参考として、大学や専門学校の年間学費は100万円前後です。さらに「先月までは100万円が今回だけ50万円」のように、価格を二重に表記して安く見せる手法もあります。
自社の教材に「◯◯万円の価値がある」と紹介する場合もありますが、根拠は提示しません。また、月額契約よりも高額な一括契約が有利であると強調します。永続的な受講や生成AIの最新情報などを理由に挙げますが、これは月額支払いより最初にまとまった金額を受け取る方が主催者の利益になるためです。もっとも月額支払いでも長期間の契約で縛って途中解約できない場合があるので、注意しましょう。
「入会金半額キャンペーンは本日だけ」「入会特典はセミナー終了から◯時間以内」のように、期間を限定して入会を迫る手法に注意しましょう。また、セミナーが長時間に渡って開催するのも、受講者を疲弊させて判断力を奪う効果があります。
こうして不安を煽りって稼げる手法を提示しながら「今すぐ入会しなければ損」「入会枠があと◯名」と煽られれば、疲れて判断力が鈍った状態のまま契約する人もいるでしょう。
このように多少なりとも生成AIに詳しい立場から見れば、気になる点が多数あります。しかし謎の生成AIセミナーの受講者は、多くが初心者なので気付きません。高額な料金を支払った後に気付いても、手遅れでしょう。
そもそも生成AIでお金を稼げるのでしょうか。一番利益が出ているのは、生成AIに必要な部品のGPUを提供する米NVIDIAです。生成AIの「ChatGPT」を提供する米OpenAIも売上は増えているものの、多額の費用がかかっています。これらは外国の話ですが、日本ではどうでしょう。生成AIで稼げる話は、SNS以外で見かけません。
そもそも本当に生成AIで稼げるのなら、他人に話さずに自分だけでやるべきでしょう。どうして、生成AIで稼げる系のセミナーが多数開催されるのでしょう。それは「生成AIで稼ぐ方法を教えることで稼げるから」です。
現状では、GPUや生成AIを開発して稼ぐのは、とてもハードルが高いです。生成AIでプログラミングを習得してブロック崩しやTODOアプリは作れても、企業向けの業務システムで稼ぐのは大変です。副業で記事や画像を制作しても、単価の安い仕事ばかりです。
しかし“生成AIで稼ぐ方法を、楽して稼ぎたい人に教えれば”稼げます。しかも技術も資金も人材も不要です。だからこそ謎の生成AIセミナーは活況なのです。生成AIでお金を稼ぐことは否定しません。しかし謎の生成AIセミナーによって、受講者が不満を抱く形でお金を稼ぐのは、生成AIのイメージが悪くなるでしょう。
一昔前、プログラミングスクールが流行した頃は「エンジニアになれば年収1000万円!」と話題になりました。今となっては、そのような人達はどこにいるのでしょう。近い将来、「生成AIで稼げる!」というブームも終了するでしょう。そのころに謎の生成AIセミナーを主催した人達が、違う題材で稼げる系セミナーをやっていないことを祈るばかりです。
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