「生成AIは魔法だ」──生成AIがこれまでの常識を覆す技術として、まるで魔法のように感じる人がいます。かつてSF作家のアーサー・C・クラークも「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と語り、進化した技術を魔法と表現するのは今に始まったことではありません。
果たして、現代社会において生成AIは魔法といえるモノなのでしょうか? 魔法といえば、創作における異世界ファンタジーの定番です。そこで異世界ファンタジーを舞台を例に、生成AIと魔法の関係を考えてみましょう。
プロフィール
ITスタートアップ社員として、AIやデータサイエンスについてSNSによる情報発信で注目を集める。同社退職後は独立し、企業におけるChatGPT及び生成AIの導入活用やDX(デジタル・トランスフォーメーション)を支援している。企業研修において、JR西日本、シーメンスヘルスケア、日立製作所などの実績がある。イベント登壇はソフトバンク、特許庁、マクニカ、HEROZを含め多数。東京大学と武蔵野大学にて、特別講義を実施している。著書に「データ分析の大学」「AI・データ分析プロジェクトのすべて」「これからのデータサイエンスビジネス」がある。10月23日には最新書籍「会社で使えるChatGPT」を発売予定。
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4492047794
X(旧:Twitter):@maskedanl
異世界ファンタジー世界に、魔法使いのヤレーネンがいました。この世界には魔法が存在するものの、魔法使いになれる人は限られています。理由として習得するために長期間の修行が必要で、本人の適性によって左右される部分も大きい面があります。そのため「使えれば便利だが、使える人が限られるので不便」という存在です。
魔法使いのヤレーネンは、人間ではなくエルフという種族です。エルフの特徴としては寿命が非常に長く、人間の何倍も長生きします。そこでヤレーネンは、魔法を誰でも使えるように研究を始めます。その世界の人々はヤレーネンの研究に期待しました。
しかし研究にはどうしても時間がかかり、人々は次第にヤレーネンのことを忘れていきました。エルフにとって「気長に取り組む」という時間感覚でも、人間にとっては「複数世代に渡って受け継ぐ壮大な計画」になるからです。
こうしてヤレーネンが長年かけて研究した結果、やっと魔法が誰でも使えるようになりました。限られた条件でしか使えなかった魔法が、誰でも使える便利な道具になったのです。しかし、物語のようにハッピーエンドにはなりません。
ヤレーネンが膨大な時間をかけて研究を進める中で、社会は大きく変化していました。
人間も長い時間をかけて魔法以外のさまざまな技術を発明した結果、魔法よりも便利な存在が社会に普及していました。そのため誰もが簡単に魔法が使えるようになっても、わざわざ魔法を使う理由がありません。
さらに社会制度も整備されました。特許制度によって、ヤレーネンが発明した魔法にも、別の人物によって特許が申請されていました。そのため魔法を使うには申請手続きを経て特許料を支払う必要があり、普及の妨げになっていたのです。
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