さらに魔法と生成AIには、共通点が見られます。以下に挙げてみました。
生成AIは誰でも使える環境ではあるものの、実際に使いこなせる人は限定されています。生成AI導入企業が全社員向けに提供しても、利用率は2割程度にとどまります。生成AIを利用する機会が少ない業種や職種という条件を差し引いても、実際に業務で使いこなせる人は限定的です。
異世界ファンタジーにおいて、本人の能力で魔法の威力が異なる描写があります(例:「今のは〇〇(強い魔法)ではない、〇〇(初歩的な魔法)だ」など)。同様に現実社会で生成AIを「使える」と言っても、人によって「使える」の基準は異なります。「幅広い用途で複数のツールを使いこなす」「基本的な機能やプロンプトが使える」「名前だけ知っているが、見栄を張って使えると言い張る」のように、個人の能力に依存しています。
一通り使えるようになるまで習得するには、相応の時間がかかります。1度だけオンライン研修を受講しても、生成AIは使いこなせません。繰り返し自分で手を動かして試しながら自発的に学習することで、業務で使いこなせるようになります。そして多忙な業務の中でここまでの手間と時間を投じられる人は、限られるのが現実です。
いくら便利な魔法や生成AIでも、何でもできるわけではありません。現実においてもSNSやYouTube「生成AIツールなら5秒で〇〇できる!」と騒がれるものの、実際には特定の条件下で限られた用途でしか実行できません。
過去の第三次AIブームにおいて「AI=何でもできる」という誤解がまん延したものの、結局は限られた用途でしか使えずに失望に終わりました。しかしDXやWeb3、メタバースのブームを挟んで時がたち、生成AIブームでも同じ失敗を繰り返す傾向があります。
魔法のように便利と思われがちな生成AIですが、企業が活用するにはまだまだ高く厚い壁があります。しかし、この壁を乗り越える必要があるのも事実です。
日本の企業における意思決定の遅さは、ダメなPDCAサイクルで説明しました。これはヤレーネンにおける時間感覚の差と同様に問題を抱えています。ヤレーネンのような遅すぎる時間感覚に企業がとらわれているままでは、将来的に格差が拡大する懸念もあるでしょう。
実際に発表から約2年が経過したChatGPTにおいて、これだけの機能追加やバージョンアップがありました。
今後も進化を続けることは確実でしょう。さらに新たな生成AIツールも多数登場しており、目的や用途によって精度も異なります。また、画像や動画や音楽など個別用途に特化した生成AIツールも登場して、同様に短期間で大幅な進化を遂げています。
近い将来に会社でおじさんが「こんな短時間で手の込んだ資料を作ったのか!?」と驚くと、若手社員から「生成AIで作りました」とツッコまれる光景も出てくるでしょう。
冒頭における「現代社会において生成AIは魔法なのか」という問いに対しては、「生成AIは魔法である。ただし悪い意味で」と答えられます。しかし、魔法が魔法のままでは、いけません。魔法を誰でも活用して成果を出せる「魔法の民主化」が急務です。もちろん長い時間はかけられません。「魔法」を「生成AI」に置き換えて、ファンタジー世界ではなく現実社会で、誰もが当たり前に生成AIを活用できる世界を目指しましょう。
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