クマ遭遇リスクマップの開発では、過去のツキノワグマの出没データと、地形や植生、気候など環境データを組み合わせた。クマの出没データは、自治体による過去7年分ほどの発表をもとに、出没日時や出没地点の緯度・経度を取得。環境データは国土交通省や環境省の情報を参照した。
これら全てのデータのフォーマットを整え、コンピュータが大量のデータからパターンやルールを学習し、それに基づいた予測をする機械学習を活用した。これにより、クマの出没地点の環境的な共通性を抽出。250mメッシュの精度で本州各地の遭遇リスクを予測し、地図上に表示した。
同マップの特徴は、ツキノワグマの出没データを公表していない自治体の遭遇リスクも予測していることだ。末田氏によると、3割強の地域がクマの出没データを出していなかったという。一方、環境データは全国分そろえられるため、機械学習で見つけたクマの出没地点の特徴を掛け合わせてリスクを評価した。
クマ遭遇リスクマップの作成を通じ、ツキノワグマと遭遇しやすい場所の特徴が明らかになった。末田氏によると、山林と人の生活しているエリアが接している場所では、共通して遭遇リスクが高かったという。
末田氏は、クマと遭遇しやすい場所の一つとして「河川沿いの林」を挙げる。こうした場所は、クマが身を隠しながら移動する通路として利用されることがある。また、笹やススキなどが生える見通しの悪い草地も、鉢合わせのリスクが高いと指摘。水辺もクマが水分補給などで利用し、水の音が人とクマ互いの存在をかき消すため危険という。
他にも、同マップの作成に際し、一年を通じた月ごとの相対的な遭遇リスクも分析した。結果、10月に人里に近い平野部や谷筋での遭遇リスクが高くなったという。「例えば、山でドングリが不作の年は、ツキノワグマが栗や柿などを求めて人里に降りてくる。そうした影響を反映した結果と考えている」(末田氏)
ただし、同マップはツキノワグマの「生息地そのもの」ではなく「人とクマとの遭遇が発生するリスク」に焦点を当てている。特性上、普段人が立ち入らない山林内などは相対的にリスクが低く評価されるが、山林内はクマ本来の生息域で遭遇リスクがある。登山やキノコ狩りなどで山へ立ち入る際は利用できない。
また同マップは、リスクが低く評価されている地域でも、クマと遭遇しないことを保証するものではない。末田氏は「自分が住んでいる地域を調べたり、旅行で土地勘のない場所に行く際、事前に確認してリスクが高そうであれば準備したりするなどの対策に役立てほしい」としている。
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