PwC Japanグループが25年に発表した「生成AIに関する実態調査 2025春」によれば、生成AIを「既に活用している」「具体的な案件を推進中」とした企業のうち、「やや期待を下回る」と回答したのが23%、「期待とは懸け離れた結果になった」が2%だった。
「やや期待を下回る」と回答した企業は、2024年春の17%から6ポイント上昇。回答企業の中から「まだ効果を評価できていない」と答えた14%の企業を除くと、生成AIを導入したが失望している企業は、全体の2割を超える。個人向けのアプリならいざ知らず、企業向けITシステムでこの結果は落第点と言わざるを得ない。
とりわけ規制産業で高い正確性が求められる医療や金融、法務といった業界では、特化型モデルに対するニーズが強い。こうした企業では、監査で「なぜAIがその判断に至ったか」という説明責任を問われる場合もある。汎用AIは判断プロセスがブラックボックスになりがちだが、特定業務に絞って設計したDSMであれば、判断の根拠のトレーサビリティーも確保しやすい。
またベンチャー投資におけるトレンドもこの流れを裏付けており、世界的に「Vertical AI(業界特化型AI)」への資金流入が加速している。
例えば「法律向けのドメイン特化AI」を掲げる米Harveyの評価額は50億ドル(8000億円、1ドル160円換算、以下同)に達しており、米Sequoiaや米Kleiner Perkinsなどの著名VCも出資している。評価額50億ドルは「ユニコーン企業(評価額10億ドル超、日本円で1600億円超)」の基準も大きく上回っており、スタートアップ全体でも突出した存在だ。
VCである米Menlo Venturesの調査によれば、25年のVertical AI市場への投資額は約35億ドル(5600億円)で、24年の12億ドル(1920億円)の約3倍。ヘルスケア分野だけで約15億ドル(2400億円)を獲得し、法務分野が6億5000万ドル(1040億円)、クリエイター向けツール分野が3億6000万ドル(576億円)規模に達したという。投資家たちが「次に伸びる領域」と見なしていることは明らかだ。
2025年のVertical AI市場への投資額は約35億ドル(5600億円)で、24年の約3倍(出典:2025: The State of Generative AI in the Enterprise)このように技術面・業務面から、DSM普及に向けた環境が整いつつあるといえる。他にも26年、DSMを後押しすると考えられる要因がいくつか存在している。
1つは、AIエージェントとの親和性だ。Gartnerは26年末までに企業向けアプリの40%がタスク特化型のAIエージェントを搭載すると予測しており、AIエージェントの普及期に入るとみられる。AIエージェントの世界では、巨大な汎用AIよりも、特定の仕事に強い複数の小型AIを組み合わせるアーキテクチャが主流だ。この設計思想はDSMと合致しており、AIエージェントの普及がDSMの需要を押し上げる可能性がある。
セキュリティ面での優位性も促進要因となる。26年には、生成AIの情報セキュリティに関する懸念がさらに高まると予想されている。世界経済フォーラムの調査によると、企業の経営幹部クラスや各分野のリーダーの87%が、AI関連の脆弱性を「2025年に最も急速に成長したサイバーリスク」と認識し、「AIは今後1年間のサイバーセキュリティにおいて最も大きな変化をもたらす要因になる」と回答したという。
特にクラウド上で汎用AIに社内情報を入力することへの警戒心は根強い。同調査の回答者の34%が「生成AIを通じた機密情報の漏えい」を懸念しており、生成AIに対する最大の懸念となっている。
この点において、DSMは優位性を持つ。前述の通り、小型モデルとして開発するDSMの場合、自社サーバやプライベートクラウド上での運用が可能となる。機密情報を外部に出さずに利用できるという点は、情報管理に厳格な企業にとって導入の決め手になり得る。
一方で、DSM普及を阻む要因も依然として存在する。最大の課題はデータの整備だ。DSMの性能は学習データの質に大きく依存するが、多くの企業ではデータが部署ごとに独立・分断しており、フォーマットも統一されていない。BloombergはBloombergGPTの開発に当たり、社内で40年以上にわたり蓄積したデータを使用できたが、そのような企業は例外的だ。
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