「これ使えないじゃん」――。
「AI導入当初はそんな空気感だった」。マイナビで社内のAI推進を担当する清野凌氏(デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 AI推進課)は、当時の雰囲気についてこのように振り返る。
マイナビが社内のAI推進を始めたのは2022年。23年にChatGPTなど生成AIサービスの登場を受け、利用ガイドラインとともに、米MicrosoftのチャットAI「Copilot」を社内に展開した。24年には専門部署である「AI戦略室」を立ち上げた。
清野氏によると、Copilotを導入してすぐに全従業員がAIを積極的に利用し始めたわけではないという。一方、AI推進のさまざまな取り組みにより、24年に社内のCopilot利用率が44.5%に達し、25年には93.0%まで上がるなど、AI活用が浸透しつつある。
どのようにAI推進の課題を乗り越えてきたのか。清野氏に聞いた。
清野氏は、Copilotの導入当初にAI利用が広がらなかった理由として、現場で働く従業員の多忙さを挙げる。特に同社の従業員のメイン層である営業職は忙しく、AIツールについて学ぶ時間などを定時内で捻出しにくい状況だった。加えて、利用ガイドラインの制約が厳しかったことなども要因となった。
一方、利用する業務を絞り込めば、効率化につながる見込みはあった。そこで清野氏は、AIを使う際の「0から1のハードル」を無くすことを意識したという。中でも注力したのが、マイナビの主要な全国20拠点を訪問し、対面でAIに関する勉強・相談会を実施するという取り組みだ。
「『AIを使える環境を用意しました。活用事例の共有会をやりますよ』と呼び掛けても、一部のリテラシーや関心が高い従業員しか参加してくれない。じゃあ、自分たちから行きましょうか、ということで始まった」(清野氏)
勉強・相談会は基本的に2日間で実施される。AIの基礎知識を学ぶ集団の勉強会を約1時間で開催するほか、30分から1時間ほどの枠で、各従業員のAIに関する相談を受け続ける。相談の粒度もさまざまで、AIの仕組みから、チャットAIへの効果的な指示の出し方、AIツールの組み合わせ方まで、幅広く答えていく。
新型コロナウイルスの流行以降、社内の相談会などはオンライン会議で済ませることも少なくない。移動時間をかけてでも全国を巡ったのは、AI活用に向けた第一歩を踏み出しやすくするためだ。
「顔を合わせて会話すると、心理的なハードルが下がって『これは聞くほどでもないか』という質問も引き出せるようになる。現場の従業員からは『わざわざ来てくれるのであれば、話を聞いてみよう』という声もあった」(清野氏)
AIに関する勉強・相談会と並行し、社内のナレッジ共有サイトの整備を進めたほか、利用ガイドラインの制約も段階的に緩和していった。こうした取り組みにより、25年の前半には社内のCopilot利用率が93.0%に達した。内製のAI議事録ツールも展開するなど、AIが徐々に浸透してきたという。
25年の後半には「マイナビ文系AI塾」と銘打った研修プログラムを始めた。全5回3カ月にわたるもので、約900人の従業員がAIの基礎から業務での実践的な活用法まで学んだという。また、AI推進に関わる従業員を増やしたり、社内のDXプログラムと合流したりするなど、AI活用を広める体制を整えた。
一見、AI推進を順調に進めているようにも思われる。しかし清野氏によると、AI活用が頭打ちになりつつあったという。マイナビの社内調査では、課長・部長クラスの管理職の43%が、AI活用度を5段階に分けた際、低レベルに相当する「未活用・受動的な活用層」と判明。課題が浮き彫りになった。
「正直に言うと、上の世代の従業員の中には、AIを毛嫌いする人もいた。そんなのに頼らなくても自分の経験があるから、と」(清野氏)
そこで、26年からは全管理職約3000人を対象に、AIに関するオンライン学習コンテンツを展開し、受講を必須化した。これまでのボトムアップの施策だけでなく、トップダウンの方式も取り入れることで、さらなるAI活用を試みている。
「AIを展開するだけでは使わない人もいる。業務フローに確実に含めるのが有効だ」(清野氏)
社内のAI推進といえば、従業員に“いかにAIを使ってもらうか”に苦心するイメージがあるかもしれない。
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