このようなAIに詳しくない人々の注目を集めて、目まぐるしく発表される最新情報を換金しながら搾取する構造について、この記事では「情弱の錬金術師」と呼ぶことにします。
「情弱」とは「情報弱者」の略語で、情報収集・活用における能力が低く、有益な情報が得られずに損をする人をやゆする侮辱的な言葉です。AIに詳しくない人を情報弱者と呼ぶのは不適切ですが、本記事では利益のために弱者を搾取する行為を批判する文脈として、あえて「情弱」という言葉を使用します。
なぜAIに詳しくない人を搾取するビジネスがまん延するのでしょう。これは、いわば生成AIブームが「推し活」になっているためです。推し活の意味は一般的に、「自分が好きで応援するアイドル・キャラクター・芸能人・スポーツ選手などの『推し』において、イベント参加やグッズ購入などの活動全般」を指します。
これが生成AIになると、状況が変わります。生成AIにおける推し活は、AI驚き屋とやゆされるインフルエンサーによる最新情報、スクールやコミュニティーやセミナー、ノウハウを販売する情報商材などの課金となります。
推し活も生成AIも、きっかけとなる入口が広く設定されています。推し活は広告やSNSなどで認知度を高めて、基本無料のゲームやYouTubeなどの配信動画に誘導します。必要に応じて課金や投げ銭を行ったり、グッズを購入したり、イベントに参加します。金銭事情に応じて、無料や微課金でも楽しめます。運営側も参加者からの継続的な応援を維持するため、企画に凝るなど取り組みを行います。
一方でAI驚き屋による生成AIビジネスでは、金額と事情が変わってきます。生成AIスクールは月額数万円、永年利用の一括払いは50〜70万円です。提供される教材が低品質で、副業で稼げないのは前述の通りです。そこでスクール運営者は、不満によって批判や退会者が出ないように、受講者に信奉を仕向けます。
手法としては受講者向けイベントを開催して生成AI界隈限定で多少の知名度がある謎のインフルエンサーをゲストに呼び、受講者に向けて「あなたも将来(いつかは明言しない)は成功する」と断言(根拠はない)して、疑問を抱かせないというものです。
また受講者で成功した人物を発表して、受講者に「自分もそうなりたい」と思わせながら、「努力しなければいけない」「成功できないのは自分のせいだ」と自責思考に誘導します。こうした錯覚を与え続けることで、受講者の不満をそらして、スクールやコミュニティーの解約を防止します。
推し活と生成AIインフルエンサーにおいて、自分の夢や成功を憧れの存在に重ね合わせて、現実では得られない体験や満足感を手に入れる仕組みという点は共通しています。社会的な成功が難しくなり生きることが複雑化する情勢に対して、推し活やインフルエンサーは簡素化されて自分に都合が良い幻想を提供しつつ、課金に誘導する仕組みを作り上げていきます。
推し活なら趣味の範囲で済みますが、生成AIになると仕事や人生設計にも影響しますし、金額も大きいです。安易にのめり込むのは危険ですし、それを無視して生成AIを集金手段にするインフルエンサーは信用できません。
では生成AIブームが終了したら、何が残るでしょうか。スクール・コミュニティーの運営者には利益が残るでしょう。しかし、受講者は過去に話題になったものの現在は使われていない生成AIツールにおける基本的な使い方しか残りません。副業でもうけ、キャリアアップを夢見たものの、そのまま夢で終わります。
これが推し活なら推しが卒業してもグッズや思い出は残ります。しかし、生成AIスクール・コミュニティーでは、何の成果も得られません。このような認知から課金につなげる導線が整備されている点でも、推し活と情弱の錬金術師が似た構造になっています。
私は過去にITmedia NEWSでもAIの連載を行っていました。当時は第三次AIブームにおけるディープラーニングが話題でしたが、話題性に振り回されて失敗する様子は現在と同じです。10年以上前の第三次AIブームで期待が失望に変わり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)ブームを挟んで、生成AIブームにおいて同じ事が繰り返されています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.