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コラム
» 2004年02月03日 19時45分 公開

上り高速化ADSLの導入を阻む、将来のサービス像の隔たり (1/2)

TTC・スペクトル管理SWGの第7回会合は、またもや参加者の意見がまとまらず、上り帯域を拡張したADSL方式の導入はさらに先送りされることとなった。この背景には、各DSL事業者の描く将来のサービス像の違いが影響している。

[佐藤晃洋,ITmedia]

 1月29日に開催されたTTC(社団法人情報通信技術委員会)・DSL専門委員会スペクトル管理サブワーキンググループ(SWG)の会合は、ADSLの上り帯域拡張方式(以下EU方式)の導入を巡り、またもや紛糾。途中の休憩を挟み、実に11時間に渡るロングラン審議が行われたものの、結局話の進展はなく、またもEU方式の導入は先送りされることとなった。

 今回、審議の中で注目すべきは、単なる技術論の域を超え、各DSL事業者が将来のサービスとして何を重視しているかという点が、各社の主張の根拠になっていたこと。果たして、各社は何を考えているのか。そしてEU方式の今後はどうなるのだろうか。

映像配信のために下り帯域を必要とするJANISとSBB

 まず、具体的な提案は異なるものの「下り速度の保護」を重点的に訴えたのが長野県共同電算(JANIS)とソフトバンクBB(SBB)。この2社に共通するのは「ADSLによるテレビ映像配信」だ。

 JANISは、既に長野県栄村で地上アナログ放送を受信できない難視聴世帯向けにADSLを利用したテレビ映像の配信実験を行っているが、同社の平宮康弘氏によれば、この配信実験に当たってNHKから要求されたのが「通常のアナログ放送と同等の映像品質を確保できること」、具体的には「映像伝送に当たり、4Mbps程度のビットレートを確保すること」だという。

 平宮氏はこれを踏まえ、「難視聴世帯の多くは最寄りの局舎から線路長で3.5km以内の範囲に収まり、また現在使用しているG.992.1 Annex A(FDM)では線路長3.5kmで平均約4.4Mbpsの速度を確保できているが、ここにEU方式が導入されると下り速度が大きく低下し、4Mbpsの速度を確保できなくなる」との実験結果を披露。「EU方式の導入は、ADSLによる難視聴世帯の解消の大きな妨げとなる」と訴えた。さらに同実験の結果を元に「線路長1.5kmまでの範囲であれば、下り4Mbpsの速度を確保できる。EU方式の範囲はそこまでに制限すべき」との提案を行った。

 一方のSBBは、テレビ映像の配信サービスとして既に「BBケーブルTV」のサービスがおなじみ。同社は今回のSWG会合に先立って開かれた事業者間協議の席で「ISDNを除く(JJ100.01に定められた)クラスA方式の回線同士の干渉を計算し、そこから10%程度をマイナスした値を第2の保護判定基準値として定めるべき」との提案を行っているが、同社の吉井伸一郎氏によれば、この“10%”という値自体が「BBケーブルTVの普及動向などを考慮して決定した数字」だという。基本的に、下りの伝送速度をいかに確保するかが同社にとって重要だということがうかがえる。

 もともと、動画配信サービスにおいて、地上アナログ放送並みの画質をネット配信で得ようとすると、エンコード方式にもよるが数Mbps程度の安定した下り帯域が必要となる。しかし、ADSLにとってこれは、そもそも厳しい数字。そんなところに下り帯域に干渉して速度低下をもたらす可能性のあるEU方式を持ってこられてはたまらない、というのがこの2社の本音だろう。

 今回の審議では、この2社にアッカ・ネットワークスを加えた3社が「暫定的に限界線路長を1.5kmとしてサービスを開始し、その後で距離制限や収容制限の緩和について改めて検討する」という妥協案を提出したが、これも言い方を変えれば「3社として許容できるのは今のところ線路長1.5kmまで。それ以上の距離では下り速度に干渉を与えない方式でなければ認めない」という意味だ。SBB・アッカの2社は、他社に先駆けてEU方式を利用したサービスを発表したため「EU方式に積極的」だと勘違いする向きもあるが、実際はむしろ消極派といった方が正確だ。

上り帯域を必要とするアプリを重視するイーアクセス

 一方、「上り帯域拡張の重要性」を訴えるのがイーアクセスやTOKAIなど。これらの事業者が重要視するもの、それは「ADSL1回線で複数のユーザーが利用できるIP電話」だ。

 昨年暮れ、パワードコムがADSL1回線で最大4回線のIP電話が利用できるIP電話アダプタを中小企業向けに提供開始するなど、従来はやや放置されてきた感のある中小の事業所向けのIP電話サービスが見直されつつある。また個人向けでも、昨年10月の「CEATEC JAPAN 2003」において、シャープが複数のSIPセッションを張り、親機と子機でそれぞれ独立した通話ができるVoIPルータを参考出展するなど(ただし同ルータは実際はモックアップだった)、ADSL1回線で同時に複数回線の利用が可能なIP電話への関心は高まっている(記事参照)。

 しかし、ここで問題になってくるのが、現在のADSLにおける上り帯域の狭さだ。IP電話を利用するには、1セッションにつき300Kbps程度の帯域が必要になるといわれている。一般的なG.992.1ベースのADSL(上り最大1Mbps)であれば、単純に考えて通話できるのは3回線まで。また、同時にWebページを閲覧したり、何かをダウンロードしたりしていると、下りはもちろん、サーバへの応答のために上りの帯域も消費する。このため、IP電話で同時利用できる回線数はさらに減少することになる。複数回線のIP電話を利用するためには、上り帯域の拡張が不可欠なのだ。

 それ以外にも、P2Pによるファイル交換ソフトやストリーミング配信サービスの普及など、上り速度を要求するアプリケーションは徐々にではあるが増加しつつある。イーアクセスは、こういった状況を受けて、総務省のDSL作業班の時代から「ISPのバックボーンにおける上り帯域と下り帯域の利用比率の差は縮まりつつあり、ADSLにおいても上り帯域の保護は不可欠」と主張し続けてきた。今回の審議でも、同社の小畑至弘CTOは「JJ100.01(第2版)に沿った計算結果に基づき、線路長3.5kmまでのEU-TIF方式(米Centilliumが提案したEU方式の一方式)の利用を認めるべき」との主張を崩していない。

 今回の審議は、「EU方式を一刻も早く導入したいSBB・アッカ」と「それを阻むNTT・イーアクセス・TOKAIら」という対立と誤解されがちだが、実際にはむしろ「EU方式をできるだけ広い範囲で利用したいイーアクセス・TOKAIら」と「EU方式の利用範囲を極力狭めたいSBB・アッカ・JANIS」という対立と解釈するのが正解なのだ。

 また、別の理由でSBBやJANISの提案に反対を唱えているのがNTT東日本と住友電工だ。これらの企業は、前述のような将来のサービス像という見地からではなく、技術的な面での問題点を指摘している。

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