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上り高速化ADSLの導入を阻む、将来のサービス像の隔たり(2/2 ページ)

» 2004年02月03日 19時45分 公開
[佐藤晃洋,ITmedia]
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新たな技術を排除する可能性も

 まず両社が問題としたのは、SBBやアッカの当初案である「第2の保護判定基準値」の部分。住友電工の白須潤一氏は、この提案に対して「そもそもADSL回線同士というのはISDNに比べると干渉が非常に少ない」と指摘した上で、「その干渉の少ないADSL回線同士の干渉計算をベースとして保護判定基準値を定めてしまうと、今後提案される新方式に許容される干渉の程度が非常に低くなってしまう」として同提案に反対する意向を示した。「“多少の干渉はあるが非常に高速な新方式”が登場する可能性を奪うもので、既存ユーザーを過度に保護するものだ」(同氏)。

 さらに、JANIS案の「線路長1.5kmまでの範囲についてのみ、EU方式を許容する」という提案についても、やはり白須氏は「同提案の根拠となったJANISによる実験だけでは足りない。1.5kmという距離設定が妥当なものかどうか、検証するにはデータが不足している」と指摘。今後、追加実験やシミュレーションなどによる検証を行う必要があるとして、NTT東日本もそれに同調した。

 NTT東日本の林明氏は「JJ100.01(第2版)自体、長い審議を経て昨年暮れにようやく成立したばかり。それだけ慎重に検討を重ねてきた結果を、成立後すぐに否定するような提案を出すこと自体おかしい」との意見も表明しており、両社は基本的に現行のJJ100.01(第2版)には問題がないとの立場を取る。それが結果的にイーアクセスらと同意見ということになっているが……。

早期にJJ100.01(第3版)を策定することで事態を収拾?

 では、今後この争いはどうなるのだろうか。

既にEU方式によるサービスの申込受付を始めてしまっているSBB・アッカはもちろん、近日中のサービス提供を計画しているイーアクセスやTOKAIも、これ以上、この問題を長引かせたくないという点で利害は一致しているはず。実際、今回の審議でイーアクセスがSBBらの妥協案に同意しなかったのは「この場で即答できる問題ではない」(小畑CTO)との理由であり、少なくとも同提案に絶対反対という姿勢ではなかった。そのため、次回の事業者間協議において、妥協案をベースとした暫定合意が成立する可能性も高いのではないだろうか。

 ただ、その場合でも線路長1.5〜3.5kmまでの範囲におけるEU方式の扱いという問題そのものが解決したわけではなく、言ってしまえば問題を先送りしたに過ぎない。実際問題として、SBBらが提案する「第2の保護判定基準値」の導入というのは、実質的にJJ100.01のシミュレーションモデル自体を改訂するという提案であることを考えると、おそらくは早期にJJ100.01の内容を改訂し、「JJ100.01(第3版)」を成立させることが暫定合意の条件になるとみられる。

 というわけで、EU方式によるサービスは、非常に限られた範囲ながら近日中にサービスを開始できる可能性が高くなってきたものの、一方で議論がさらに長期化する可能性も高くなってきた。各社が求めるサービス像が大きく異なる以上、この論争は簡単には収まらないと思われるが、果たしてどこが落としどころとなるのか、それとも互いのニーズを共に満たす新方式が現れるのか。まだまだこの論争からは目が離せそうにない。

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