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視聴率偏重主義が破壊する番組制作の常識(2/3 ページ)

» 2005年05月23日 11時48分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 若いプロデューサー氏の新しい提案は、ベテランの番組スタッフ達に驚きと困惑をもたらした。氏は過去数十回の番組内容と視聴率の変動を綿密に見比べ、ある相関関係を見いだしたのである。その関係とは、

 「花を多く見せた回は、視聴率がいい」

 つまり、今後の番組にはなるべく花のカットを多く入れるように、スタッフに要求したのである。

 まあ待て待て。ツッコミどころはいろいろあると思うが、まず統計的にそういう関係があるとしても、なぜそういう現象が起こるのかといった根本的なところまで考えが至っていないところが、この受難の受難足るゆえんなのである。

 もう少し番組制作のプロセスに踏み入って話をするならば、花を多く取り入れた回は、たまたま花がいっぱい咲いているところに行ったからである。番組自体は別に花専門番組ではないので、当然花が咲いていない場所にも行く。そこに花のカットを突っ込めというのは、どう考えても無理がある。まあ花なんて季節さえよければその辺にでも咲いているものだが、必然性がないのにそんなカットを入れても、視聴者にはなんのことやらさっぱりわかるまい。

 またそんなことがルール化されれば、必然的に取材場所も今までのチョイスのセオリーから逸脱せざるを得ない。一見他愛のない提案に思われるかもしれないが、実は番組制作の根本的な部分を根こそぎ粉砕してしまいかねない縛りなのである。

視聴率が産む幸福

 なぜ局のプロデューサーは、それほどまでにこの番組の視聴率にこだわるのか。この理由は、実に根が深い。

 まず1つが、この番組の元々の視聴率にある。既に視聴率が高く、裏番組が強力な時間帯の番組は、簡単には視聴率は上がらない。現状でもギリギリのせめぎ合いだからである。だがこの番組のように、キモチの隙間的な番組が放送される時間帯では、とくに競合があるわけでもなく、比較的視聴率の伸びしろがあると考えられている。つまり18%の視聴率を0.1%上げるのは大変だが、2%の視聴率を0.2%上げるのは造作もないないというわけである。

 だが2%の番組の視聴率を小数点で上げたところで、その程度では番組の広告費を上げる理由にはならないと考えるだろう。ところがこの真の目的は、放送局全体の視聴率、つまりチャンネル占有率に行き着くのである。「この局は他局よりも多く見られている」ということがわかれば、営業も強気で行ける。またその局の景気を判断する材料となり、株価も上がるわけだ。

 このカラクリは、局全体の視聴率は、単純に各番組視聴率の合算に過ぎないという点である。人気番組が負けても、そのほかの番組でこまめに稼げば挽回できてしまう。こうして局全体の視聴率アップに貢献したプロデューサーは、すぐにその手腕を評価されることになる。つまり、功績が目立ちやすいのである。

 テレビ局にとっての視聴率は、その数字が上がりさえすれば、いろいろな幸せが特典として付いて回る。だがどうやって視聴率を上げるかというセオリーは、良質な番組を作ればいいということとは、直接繋がってこない。こうしてテレビ番組は、プロデューサーの出世の道具として消耗されていく。

視聴率が産む不幸

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