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mF247の丸山茂雄さんが考えた「焼きそば屋的Web2.0ビジネス」(上)ネットベンチャー3.0【第8回】(2/2 ページ)

» 2006年09月15日 12時30分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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硬直化はコンテンツの質の低下を生む

 だがコンテナー部分がそのように巨大化していくと、<コンテンツ―コンテナー>モデルは正常に機能しなくなる。コンテナーがコンテンツに対して優位性を保つようになってしまうと、コンテナーが自分に都合の良いコンテンツだけを選別するようになってしまい、冗長性が失われてしまう。冗長性が失われれば、コンテンツの質は自然と低下していく。無駄なものが多ければ多いほど、そこから拾われる「玉」の質も高まるというのが、コンテンツの質を保持する際の基礎定理ではないかと私は考えている。たとえば小飼弾さんの『404 Blog Not Found』のエントリー『ゴミなきところに知なし』を読んでみてほしい。

 だから巨大化して硬直化したコンテナに風穴を開け、冗長性を取り戻すため、ライブハウスというサブカルチャーをそこに持ち込んだのは、正しい戦略だったといえるだろう。言ってみれば、丸山さんがEPICから始まってmF247へとたどってきた道のりというのは、音楽産業に冗長性、多様性を取り戻そうという闘いの歴史であったともいえるのだ。

 ところがビジネスの世界は、恐ろしい。そうやってライブハウスから聴衆たちのクチコミでバンドやミュージシャンを売り出していくという新たなモデルが提示されると、そのモデルに多くのレコード会社やテレビ局、広告代理店などが目をつけ、一斉にむらがって消費し尽くしてしまうようになったのである。

 具体的に言えば、80年代後半にバンドブームが盛り上がり、テレビでバンドブームを演出するバラエティー番組が製作されてヒットすることによって、ライブハウスからメインストリームへというEPICが仕掛けた新たなモデルもあっという間に消費され、再び巨大コンテナーの中に呑み込まれてしまった。「バンドを若者のリスナーたちが選ぶ」という新たなコンテナーモデルが、テレビの土俵の中に取り込まれてしまい、新しかったはずのコンテナーモデルが権威化していってしまったのである。

テレビと組むことのメリット/デメリット

 「テレビのようなマスコミをどう扱うのかは、難しい。たとえば大相撲は当初、テレビ放映したら国技館に来てもらえなくなる可能性があり、だからテレビで放映すべきではないという意見があった。しかし実際にテレビ放映に踏み切ってみると、ファンが増えて結果的に国技館の集客も増えた。だからファン層を広げるためにはテレビという媒体は有効でそれを利用するのは間違いではないのだけれど、しかしテレビという同じ土俵にみんなが乗ってしまうことによって、過当競争になってしまうというリスクも負わなければならなくなる」

 レコード会社という巨大コンテナーの上に、さらに巨大なテレビというコンテナーが覆い被さり、音楽業界のコンテナーはますます堅牢化した。「視聴率を上げなければならない」という至上命題の中で、テレビ局のプロデューサーが音楽の選曲に口を出すようになる。つまりはそこでコンテナー側の事情が加わってしまうわけで、おまけにコンテナーとしてはコンテンツがよりよくなるかどうかについてはあまり興味はない。クライアントに気に入られて、視聴率がきちんと取れればいいとしか考えていない。新しいミュージシャンを育てる義務もなく、だったら冒険しないで売れているミュージシャンを出演させればそれでいいじゃないか――という下向きのスパイラルにどんどんはまり込んでいってしまうわけだ。

 丸山さんは1992年、SMEの副社長に昇格。さらに98年には社長に就任する。そうやって巨大レコード会社の舵取りをしなければならなくなり、しかしそのポジションに対して大きなジレンマを感じるようになっていく。

 そもそも、レコード会社とはいったい何なのだ?――1999年、SMEが「bitmusic」という名称で邦楽新譜CDシングルタイトル曲の有料音楽配信を開始した時、丸山さんが真剣に悩んだのはその深遠な命題だった。インターネットの登場によって、レコード会社の意味は変わってきているのではないのか? ではレコード会社が最後に拠って立つべきものとは、いったい何なのだろう?

(毎週金曜日に掲載します)

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)など。


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