この3月31日で米Microsoftの「Microsoft Bob」が発売15周年を迎える。Microsoft Bobは、この種の製品について取り上げる事実上すべてのIT系メディアからあまねく失敗作の烙印を押されたソフトウェアプロジェクトだ。Bobは元々、PCのナビゲーション方法を全く知らない1995年当時の初心者ユーザー向けに、カラフルで漫画チックな使い勝手のよいスキンインタフェースとして設計されたもので、成功の可能性がないわけではなかった。少なくとも、発売の翌1996年に納屋の裏に引きずり込まれ、ただちに射殺されなければならないほどの失敗作になるはずではなかった。
Microsoft Bobでは、各アプリケーションは振り子時計などのアイコンに姿を変え、家庭の居間やキッチンを模したデスクトップ上のあちらこちらに配置された。だが実際のところ、Microsoft Bobは精神分析医のクリニックの待合室よりも多くの問題を抱えていた。Technologizerサイトでは、Microsoft Bobの15周年を機に、その非常に高いハードウェア要件(486系CPUや8Mバイトメモリなど)や価格の高さ(99ドル)、お粗末な評判について、改めて論評している(Washington Post紙はMicrosoft Bobのカスタマイズ性について、「うわべだけのものだ」と糾弾したという)。それに加えて、Bobのインタフェースのガイド役として初心者向けに用意されたネズミやカメのキャラクターときたら、8歳以下の子供でもなければ喜ばないような、あまりに幼稚な代物だった。
概して、Microsoftがかわいらしさを追求しても失敗するのが落ちだ。Officeのアシスタントキャラクター「Clippy(クリッパー)」についても、おそらく誰かがある時点で、「一般的なOfficeユーザーにはこれが受けそうだ」と思い付いたのだろう。Clippyは、銀行強盗用のメモにしろ何にしろ、ユーザーが何か入力しようというときにWordの余白に勝手に現れては「何か助けは要らないか」と尋ねていた、大きな目をしたクリップの形のアイコンだ。だがClippyはかえって作業の邪魔だということが分かり、結局、考えられる唯一の用途と言えば、クイズ番組「Jeopardy!」の賞金800ドルの問題で、「車で何度も繰り返しひいてしまいたいものは?」という質問の答えになることくらいになってしまった。
もっともMicrosoft Bobは、ソフトウェア設計とマーケティングに関して基本的な教訓も示してくれている。とりわけ、価格設定やハードウェア要件といった点については学ぶところがある。Bobの登場から12年後に発売されたWindows Vistaに対して、ユーザーから特に多くの苦情が寄せられたのは、ハードウェア要件が高く当時の大半のPCにとっては負担が重すぎるというものだった。またWindows 7がリリースされるや否や、Microsoftのライセンス構成に対する苦情が聞こえ始め、中には、Microsoftのライセンス方針のおかげでWindows XPからのアップグレードの見直しを迫られる顧客もいた。
もちろん、価格や要件や機能といった要素の間でいつも例外なく最善のバランスを取れる企業などないだろう(なにしろ、社内のスケジュールのせいで、大きなバグを解決してからソフトウェアをリリースするということすらできない場合もある)。だがMicrosoft Bobは、「それなりのアイデアを持っていながら、それを実現するための的を完全に外してしまうとどうなるか」ということをはっきりと示している。通常、誰かや何かの墓碑銘では「あなたがいなくて寂しくなる」といった言葉でその死を悼むものだが、Microsoft Bobについてはいっそ「さっさと忘れてしまおう」という墓碑銘のほうがよほど相応しいかもしれない。
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