ユーザーインタフェースの変遷から考えるWindows 7元麻布春男のWatchTower(1/2 ページ)

» 2009年07月31日 11時11分 公開
[元麻布春男,ITmedia]

Windowsで最初に商業的な成功を収めたWindows 3.0

Windows 3.0のUI。今から見ると、相当に素朴だ

 マイクロソフト自身が認めるように、Windows 7はWindows Vistaをベースに開発されたOSだ。当然、Windows 7はWindows Vistaと高い互換性を持つことになるが、そのWindows 7でWindows Vistaから最も変わった点を挙げるとすれば、それはユーザーインタフェース(UI)、ということになるだろう。Windows 7の新しいUIで最も特徴的なパートはタスクバーであり、Aeroのグラフィックス拡張であるわけだが、こうした具体的な変更以前に、UIに関する哲学の変化のようなものがあったのだと思う。

 Windowsで最初に商業的な成功を収めたのは1990年5月にリリースされたWindows 3.0だが、そのUIに“哲学”というほどのポリシーがあったのかどうかは疑問だ。開発する側の都合を優先し、使える最低限の機能を備えたものが当時のWindowsのUIだったように思う。

 この時点で、オーバーラッピングウィンドウやウィンドウごとに個別のメニューを備えるという、現在につながる仕組みはできていた。ところが、アプリケーションを起動するショートカットを管理する仕組み(Program Manager)と、実体であるファイルを管理する仕組み(File Manager)が似て非なるものとして存在するのは分かりにくいという批判を浴びた。

 それもあって、市場にはWindowsのUIを統一されたものに変更するツール、シェル拡張のようなソフトウェアが何種類も存在した。Hewlett-PackardのNewWave(類似性によりAppleと訴訟になった)、XeroxのTabWorks(Compaq製のPCに標準採用された)などはその一例だ。

Windows 95からLunaを導入したWindows XPへ

タスクバーが取り入れられたWindows 95のUI。スタートメニューに見えるMicrosoft Bobは、Windows 95上で動くホームユーザー向けのシェルだ。後にゲイツ夫人となるメリンダ・アン・フレンチ(Melinda Ann French)氏がプロダクトマネージャーを務めたことがあることでも知られる

 1995年に登場したWindows 95では、スタートメニューを持つタスクバーが導入され、Program Managerを置き換えた。アプリケーションを起動し管理する仕組み(タスクバー)と、ファイルを管理する仕組み(Explorer)が、区別されたわけだ。それでも、Windows 95のUIに独自の“哲学”があったかと言われると疑問で、むしろ余計な“哲学”などないがゆえに、使っていて不愉快になることがないUIだったのではないかと思う。好き嫌いが分かれるほどの個性はなかったことになる。

 このWindows 95のUIは、Windows 95という製品がPC業界を変えるほどのヒット商品となったこともあり、Windows クラシックとしてその後も継承されていくことになる。Windows 7でも、Windows クラシックはテーマとして残されており、タスクバーのカスタマイズと合わせて、かなりそれらしい雰囲気を作ることができる。

 Windows クラシックは、大きな見直しを受けることなく、Windows 98、Windows 98 SE、Windows 2000と受け継がれていく。次にWindowsのUIが大きく変化したのはWindows XPだ。Windows XPのUIであるLunaは、デスクトップの背景(壁紙)が草原になるなど派手な見た目に気を奪われがちだが、UI的にもいくつかの大きな変更を行っている。

 その1つは、アプリケーションの起動をスタートメニューへ集約しようとしたことだろう。クイック起動(タスクバー左側にあるプログラム起動用の小アイコン)をデフォルトでオフにし、インストール後のデスクトップにはゴミ箱だけでアプリケーションを起動するショートカット(アイコン)をなくした。それどころか使用頻度の低いアイコンを、定期的に消そうとする(デスクトップクリーンアップウィザード)。コントロールパネルも、従来のアイコンがズラッと並ぶ方式から、目的別に分類されたスタイルが初期設定となっている。

 そしてBalloon tipsだ。タスクバー右端の通知領域に、システムメッセージがフキダシ状に表示される。まず断っておくが、筆者はこのBalloon tipsが死ぬほど嫌いで、Windows XPをインストールしてまず最初にやることの1つが、レジストリエディタでBalloon tipsを無効にすることだったりする。同じ通知を繰り返し表示しない、1度ユーザーがとった対処を記憶して、次からは自動的に適用するくらいのインテリジェンスさがあればよかったのにと思う。定期的に表示されるデスクトップクリーンアップウィザードのBalloon tipsにはうんざりである。

 このBalloon tipsにも見られるように、LunaにはOSの側からユーザーのために、積極的に何か有意義なことをしようとし始めたフシがある。クラシックに比べてLunaは、多弁なUIになった印象が強い。それも含めてLunaには、UIとしての“哲学”のようなもの、あるいはその芽生えが感じられる。しかし、筆者にはかえってそれが我慢ならず、Windows XPを主力として使った約6年間のうち、4年余りをフルクラシック環境(デスクトップテーマ、タスクバー、スタートメニュー、コントロールパネルのすべてをクラシックに設定し、Balloon tipsを無効にした状態)で使っていた。少なくともWindows XPで踏み出した方向性は、筆者にとって望ましい方向ではなかった。

スタートメニューが変わり、Balloon tipsが導入されたWindows XP(画面=左)。半透明の効果を用いたAero Glassを導入したWindows Vista(画面=右)。画面上にOutlookのアイコンだけで6つもある

自己主張が激しくなったWindows Vista

Windows クラシックはWindows 7でも健在だが、クイック起動に相当するアイコンにタイトルがつくなど、完全に同一ではない

 Windows VistaのUIであるAero Glassについては、半透明の効果やフリップ3Dのようなギミックが取り上げられることが多いが、その哲学としてはWindows XPの路線をさらに推し進めたものだと思う。ユーザーによるアクセスをよくするという名分で、クイック起動がデフォルトで有効になり、デスクトップのアイコンも目の敵にはされなくなった(デスクトップクリーンアップウィザードは廃止された)。そうしたこともあって、タスクバー、スタートメニュー、デスクトップに同じアプリケーションのアイコンがあふれる結果となった。初回起動時に表示されるウェルカムセンターを含め、Vistaというのは多弁なOS、自己主張の多いOSという印象が強く、筆者にとってはうっとうしいOSになってしまった。筆者がメインマシンのOSとしてWindows Vistaを使っていたのは、わずかに半年ほどだったと思う(その後Mac OSへの移行という、斜め上の展開になったのは、また別の話である)。

 残念ながらWindows Vistaは、世間的にもあまり評判がよいとは言いがたいが、その理由は1つだけではない。主なところは次の4つだろう。

  1. 不具合が多い(多そうだ)から
  2. 互換性が低いから
  3. ハードウェアの要求が高いから
  4. 操作性が気に入らないから

 このうち1については、Service Pack 1の提供でほぼ解決した。現在はService Pack 2になっており、Windows Vistaが仕様と異なる動きをすることはまずないはずだ。2の互換性についても、対応可能なアプリケーション、ハードウェアについてはVista対応は終わっている。すでに開発が停止した古いソフトウェアについては、対応しないものも残っているだろうが、それはWindows Vistaに限らず、OSのメジャーアップデート時にはつきものだ。

 今回マイクロソフトは、企業内のアプリケーションに対しては、仮想環境(Windows XPモード)の提供を行うなど、できる限りのことをした印象がある。コンシューマー向けに仮想環境を提供しないのは、仮想環境による機能の制限や性能の低下を考えると、あまりメリットはないと判断したからだろう。筆者にも、Windows上で仮想環境を使ってでも動かしたい古いWindowsアプリケーションというのは実際、存在しない(Macの上でWindowsアプリケーションを使うのとはワケが違う)。Windows Vistaのリリース時に言われた互換性問題は3年の時間が事実上解決したし、例外的なアプリケーションへの対応についてもマイクロソフトはベスト、あるいはベストに近い対応をしていると思う。

 ハードウェアの要求が高すぎるという批判については、やむを得ない部分がある。Windows XPがリリースされた当初(2001年10月)のマシンでWindows Vistaを利用するのは、確かに厳しい。2001年というのは、夏に最後のPentium III(ノートPC向けのTualatin)がリリースされた年であり、翌2002年の1月に第2世代のPentium 4(Northwood)がリリースされた、そんな時代だ。インテルのチップセット内蔵グラフィックスでAeroが利用可能なのは2006年5月にリリースされたIntel 945 Express以降だから、内蔵グラフィックスを利用したPCを利用する多くのWindows XPユーザーは、次のバージョンのWindowsへ円満に(Vistaの全機能が利用できる状態に)アップデートできなかっただろう。

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