ビジネスマンの会話でも何かと使われる機会が多い「ちょっと」ですが、「数量が少しであること」という元の意味を超えた言い回しになっているようです。特に単独で使われるとほとんど意味不明。ちょっと何なの?
「いいところに来たわね。あなた工事担当の人でしょ。いったい、うちの外壁塗装、いつ終わるのよ」
「すみません。ちょっと、わかりません」
「ちょっとって何なのよ」
「ですからちょっと……、あのぉ、お天気の具合とかもありますし」
「あなたと話してもしょうがないわ。支店長さん呼んできて」
ちょっとどころか、大いに困った展開になってしまったようですね。
例文中の「ちょっと」は「少し」を意味するものではありません。言葉としては無意味です。すなわち「ちょっとわかりません」は「わかりません」で十分です。
意味のない「ちょっと」は煮え切らない響きをかもし出す、単なる雑音でしかありません。質問にハッキリ答えてもらえない上に、この耳障りな雑音を聞かされるのですから、お客さまは、二重に不愉快になるというものです。
恥を忍んで申しますと、右の例文で「ちょっと」を繰り返す工事担当者は昔の私がモデルです。学校を出て住宅リフォーム会社に就職した当初は、建築の知識も折衝の経験もなく、ただひたすら現場に行ってお客さまに怒られる日々でした。「質問されてもわからない。でも正直に『わからない』と言えない」「言うべきことがあっても、言ってしまって怒られるのが怖い」といった状態で、口を開いては「ちょっと」しか出てこないというありさまでした。歯切れの悪い私にお客さまはますます不愉快になり、ますます自分が困るという悪循環にはまっていました。
実際に、支店で一人留守番をしているとき、お客さまから「請求額が見積書と違う」 とクレームが入り、「ちょっと調べてみます」と返事をしたところ「ちょっとじゃなくて、きちんと調べてくれ」とすごい勢いで食って掛かられたことがあります。
幸い、私は「ちょっと病」から抜けることができました。当たり前のことですが、お客さまと会う前に状況を把握して、聞かれそうなことに準備をしておく習慣をつけたのです。また、答えられないときは正直にそう言って、調べてからあとできちんと伝えればいいということにも気づきました。
そしてもう1つ。わずかでもこちらに非がある場合は、先に「申し訳ございません」と言えるようになったのです。先に謝ってしまえば、お客さまもむげに怒れなくなります。会話のペースもゆっくりになり、落ち着いて受け答えできる余裕も生まれ、「ちょっと」の出番を減らすことができるのです。
「ちょっと」から 怒り火がつき 大炎上
ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1999年に独立。現在はコミュニケーション研修講師として、プレゼンテーション、話し方、マネジメントなどの分野で年間100回以上の講演を行っている。また、Webサイトのプロデュース、システム開発も手がける。著書には『ビジネス快話力』(主婦と生活社)、『みんなのパワーポイント企画・構成・話し方』(エクスナレッジ)などがある。
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