第3回 コーチングとティーチングをどう使い分けるか?今さら聞けないマネジメント&コーチングの基本(2/2 ページ)

» 2008年03月21日 14時48分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]
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 その人に聞いてみるといいでしょうね。「専門的な仕事をやっていたようですが、どういうところに気を付けていましたか? どんなところに誇りを持っていますか?」と。たぶん、とうとうと語ってくれると思いますよ。そうすれば本人の自尊心が満たされますし、聞いてくれた人に対して好感を持つはずです。そして、「専門職でうまくやっていた部分を、プロジェクトで生かすとしたらどんなふうに生かしますか?」というような質問をします。そうしたら、できること、できないことを答えてくれるでしょう。自信がないという部分はティーチングを増やせばいいし、生かせる部分は「ぜひ生かしてほしい」とお願いします。

 要は、相手のプライドをくじかないことです。とかく「専門職とは違うんだから。お前、こうじゃなきゃダメだ!」とやってしまいがちですね。確かにそうなんですが、そうすると、その人の今までの実績がゼロになってしまいます。生かせるものは、生かしていきたいものです。

 困るのは、専門職時代の思いをとうとうとしゃべって、新しいプロジェクトでもこんなふうにやってみたいということが、明らかに「違うだろ!」という場合です。この場合は、私メッセージです。「なるほど、キミのこういう部分は生かせると思う(Yes)。そして(and)、私の意見だと、ここの部分はこうしたほうがよりよくなると思う」と、私メッセージで伝えます。たいていの人はそれを聞き入れるはずです。

 ところが、「いや、僕のやり方でいけます!」という人がまれにいます。そのときは、説得しようとはせずに、引き出すスキルで対応します。「なるほど、そう思うんだね。じゃあ1週間後、どうなっていればいい? そのために何ができる? じゃあ、1回それでやってみよう」とやらせてみます。上司に「こんなの無理だよ」という気持ちがあると、部下はけんか腰になるので、完全にニュートラルな気持ちで対応してください。そして1週間後、「どうなった?」と聞きます。「ダメでした。やっぱりこのやり方はマズイですね」と、本人が気づいてくれれば話が進みますよね。

 このコーチングをせず、「できます」といいながらできないまま、本人の気付きもないままになってしまうと、放任型になってしまいます。コーチングは、放任や傾聴と似て非なるものです。任せることが大事だといって放っておけば、それはコーチングではありません。また、部下が話したいことを、ただじっくり聞くというのも、カウンセリングではあってもコーチングではありません。上司にすでに答えがあって、部下に気づかせる質問をするという方法もあるようですが、それもコーチングではありません。それはコーチングの仮面をかぶった指示命令です。世の中のコーチングの誤解がこの部分です。

 コーチングの成果が出ないというのは、それがコーチングではなく、放任や傾聴になっているからです。コーチングでパフォーマンスが落ちることは、まずありえません。確かに無理やりやらせようとするとパフォーマンスは下がります。また、「あの人がこんなにひどいからうまくいかないんだ」という部下に対して、「ああそうか、大変だな、キミも」みたいな傾聴型の対応では、成果につながりません。

 部下がほかの人に対して不満を持っている場合は、「そうだよな(Yes)」で一通り受けてください。そしてその後、「だけど(but)」にはしません。「なるほど。ところで、キミはどういうふうになればいいと思う?」と聞きます。部下が答えたら、「では、そうなるために、キミにできることは?」と進めます。「そんなものない。アイツらをクビにしてくれないとできない」と答えるかもしれません。そのときも、「だけど」はナシで、粘り強く聞いてください。目標に対して達成度はどれくらいか、達成度が0.5でも1でも上がったとしたら、どうなっているか、そこに向けてできることはないか、といったことを聞いていきます。

 この方法は、上司の行きたい方向を指示しているわけではないし、相手のことを聞いているだけでもありませんし、ほったらかしているわけでもない。ニュートラルな立場だけど、しっかり軸を持ってリーダーシップを発揮しています。これがコーチングです。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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