人材育成には知恵より“知識”が大事 教え方に演出をプロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(1/3 ページ)

「情報化が進んだ現代では、知識は検索一発で手に入る」なんて間違いです。人材を育てようとするならば、「知識を教えること」は避けられません。「知識を教える」時に講師の立場でできる「一工夫」を紹介します。

» 2009年05月15日 18時00分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]

 お知らせです。当連載で扱ってきました「教える技術」をテーマとする本が6月に刊行されることとなりました。版元は青春出版社、タイトルは『頭のいい「教え方」 すごいコツ!』です。

 今回は、この本を書くに当たって1つ大きな問題意識として私が考えていたことから話を始めましょう。それは、「知識」と「知恵」に関する問題です。

知識よりも知恵が大事、というのは本当か?

 えらい先生であったり、人生の成功者の講演会に行ったりすると、「知識よりも知恵が大事だ」という話が出てくることは珍しくありません。

 知識をいくら持っていても、それを生かす知恵がないことには話にならない。

 情報化が進んだ現代では、知識は検索一発で手に入る。それよりも知恵を働かせること、これが大事だ

 というようなロジックを私は何度も見聞きしたことがあります。

 ハッキリ言いましょう。こういう考え方は、間違いです。世迷い言でしかありません。

 「知識よりも知恵が大事」という主張は結局のところ、「単に覚えただけの知識では使い物にならない」と言い換えられますが、それを言うなら実際には「覚えてさえいない知識はそもそも使えない」のが現実です。

 確かに検索一発で豊富な知識が手に入るのは事実ですが、そもそも的確な検索キーワードを選択するというのは難しいもので、豊富な知識を持っていないと不可能なのです。

 そして、検索結果の中から有益な情報とガセネタを見分けるためにも、やはりもともと自分の中に確立したソース付きで持っている「知識」が必要です。インターネットが発達した現代、「知識」の重要性はかえって高まっているのであって、その逆ではありません。

 ですから、人材を育てようとするならば、「知識を教えること」を避けて通るわけにはいきません。

とはいえ単に「教え込む」だけでは知識は定着しない

 知恵を発揮できるようにするためには、その前に「知識」を徹底的に教え込んでおかなければなりません。とはいえ、ただ単に「教え込む」だけでは知識はなかなか定着しないし、「ピンと来ない」のも事実です。

「地域と気温」の単純列挙バージョン

 東京の年平均気温は約15度、香港は23度、沖縄も23度、タイのバンコクで28度、ベトナムのホーチミンで28度、シンガポールで27度、キリバスで28度、ガラパゴス諸島で24度。

以上! 覚えておくように!

 例えば上記のように世界各地の平均気温を列挙されたとして、これを覚えておける人はどれぐらいいるでしょうか? こんな無味乾燥な教え方をされたのでは、あっという間に忘れてしまうことは間違いありません。

 そこで、一工夫して例えばこんな表を作ってみます。

地域 緯度 年平均気温
東京 北緯36度 15度
沖縄 北緯27度 23度
香港 北緯23度 23度
タイ、バンコク 北緯13度 28度
ベトナム、ホーチミン 北緯10度 28度
シンガポール 北緯1度 27度
キリバス、タラワ 北緯1度 28度
ガラパゴス諸島 北緯0度 24度

「地域+緯度+気温」バージョン

 すると、「あれっ?」と思うところが出てきますね。

 色つきの下の3行に注目してください。

 北緯1度、つまり事実上赤道直下のシンガポールやタラワの年平均気温が27〜28度だというのに、なぜ同じ赤道直下のガラパゴス諸島は24度なのでしょうか。

 よく見ると、北緯10度〜13度のホーチミンやバンコクでも28度ぐらいあります。24度といったら、北緯25度近辺の香港沖縄並みの気温です。

 なぜ、ガラパゴス諸島は赤道直下なのに暑くないのか?

 こんなふうに、「なぜ」が出てきて疑問を持つと人のアタマは活発に働き出し、同じ情報でも非常に記憶に残りやすくなるという性質があります。そんな性質を使わない手はないわけで、無味乾燥な列挙になりがちな「知識」を教えるときには、どこか1カ所でいいのでこんな「意外性のあるポイント」を見つけましょう。そしてそれを学習者がハッキリと意識するように仕向けてください。

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